劇場公開日 2012年11月10日

  • 予告編を見る

「寺島氏の演技が、もっと評価されてよいと思う。」カミハテ商店 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

2.0寺島氏の演技が、もっと評価されてよいと思う。

2023年7月17日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

単純

寝られる

『名前のない少年 脚のない少女』の映像の色調、音楽と似ている。
普段自死志願者と関わっているので観ておかなきゃと鑑賞。

父に目の前で自死され、母も亡くなり、年齢的にも、地域的にも、生きている実感・意味が見出せない千代。皮肉なことにそんな彼女の前に、自死志願者や自死をレジャーのように扱う女子達が現れる。そんな彼らにいら立つ千代。

同時並行で、いかにも自死しそうな弟・良雄が描かれる。

制作前に自死者に関するリサーチを行ったと聞く。だからか、良雄の行動はリアリティあるのだけど、それ以外の人々は表面的で実感できず。
 牛乳配達の青年も中途半端。知的障害・自閉症的な演技も中途半端だし、何故崖の際に立ったのかも流れが読めない。彼なりに直前に関わった女の子のことが引き金になったの?と思う位(学生としては…とも思いたいけれど、子役で見事な演技している人たくさんいるからなあ。掘り下げ方が足りない)。
 ほとんどのエピソードが唐突で、しかも演技も演出も表面的。千代の心の変化に焦点あてた?のかもしれないが、映画全体としてはついていけない。
 役所の対応もなあ。千代に協力求める以前にバスの運転手と連携しろよ、という感じ。バスの運転手もラストにあの言葉を吐くくらいなら、土地の者以外の乗客を乗せた時点で、警察に通報しろよと思う。
 上記のような生い立ちの千代が「死にたい奴は死んだらええ」と叫びたくなる気持ちはごもっともとわかるのだが、脚本・演出が粗すぎる。高橋さんが見事な演技をされているだけに、もどかしい。高橋さんが行間を埋める演技をされていたから、映画として瓦解せずに済んだものの…。
 重いテーマ扱っていることに加えて、カメラが手ぶれする場面もあり、鑑賞していて酔いそうになった。演出なのか…。私的には、テーマがテーマなだけに、腰据えてどっしりと撮って欲しかった。主演俳優は、そんな小細工必要としないもの。

自死したいという人の話を伺う機会がある。いろいろな方がいる。本当に八方ふさがり・抜き差しの成らない状況。声すら出ない時も。千代の気持ちも良雄の気持ちもとてもわかる。
 だからこそ、自死者やお遊びのように自死的な行動をとる人々を類型的に表面的にしか作り込めていないことに、観ていていら立つ。本当に自死者・自死志願者の苦しみをわかって描いているのかと怒りすら覚える。
 リサーチって何をリサーチしたの?心で理解したと言うより、統計的・類型的に頭で理解した感じ。リサーチするより、東尋坊のボランティアに1週間くらいくっついて、一緒に行動してほしかった。いのちの電話関係者に監修してほしかった。

権威ある映画祭に正式招待された映画という。だが、私的には映画学科の卒業作品。頭でっかちに、自分達だけの撮りたい世界だけをを作り上げた自己満足作品。高橋さんの演技が評価されて招待されたというのなら理解できるが。
 良いテーマを扱っているなあと、その挑戦には敬意を払う。でもだからこそもっと丁寧に扱ってほしかった。

それでも、高橋さんに加えて、寺島氏の演技は秀逸。
 ラスト、あのお金を使い込むのか、それとも…。そんな葛藤・逡巡を歩いていく後姿だけで表現しきっている。さすがやなあと感服いたしました。なので☆1つアップしました。

とみいじょん