劇場公開日 2012年7月21日

「辟易する子供の駄々」おおかみこどもの雨と雪 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5辟易する子供の駄々

2020年7月11日
PCから投稿

細田守の子供が駄々をこねる描写が厭わしい。
ミライを見て、この映画を見て、それを思った。

自立心の芽生えを描く話も、着地点も見事だと思う。
ただ、ごねる描写に、ほとほと辟易する。

意図せずして、観衆にとって、もっとも煩わしい敵──といえるモノが、子供の駄々になっている。

作意を酌むなら、子供の駄々は、大人である観衆が、目を細めて「かわいいねえ」と是認する場面であろう──はずである。とうぜん、そう見る人もいるに違いない。

ところが、作画に、そこまでのアドラブルがないとき、とりわけ巨大な口をもつミライのくんちゃんなんて、ほとんど張り倒したくなってくる。

ただ、問題は、かわいくないことに因っているのではなく、駄々描写のしつこさに因っている。駄々をこねるシーンが、どう考えても多すぎる。

この映画でも、子供は家じゅうを壊しまくる暴れん坊である。少し視点をズラせば、テロリストである。

日常生活において、そういう気苦労を、さんざっぱら背負っている親が、話を書いている──のではあろうが、子育てとは、特殊性のない、人類のいとなみであって、そんなことを自任されてしまうのは、やや疲れる。

子供たちの横暴は、その自立を描くための強調だとは思う。身勝手を収めて、一歩成長する譚へ昇華するために、わざと駄々をキツめに表現している──とは思う。

しかしそれにしても、うるさい。
すなわち、そこまで子供の駄々を強めなくとも、監督の主題は伝わるだろう──という気がしてしまう。

リリカルや純情へ落とさなければ、落とさないほど、すっきりする。そのことが、時かけやサマーウォーズで立証されている──と個人的には思う。

また、子供の横暴が過ぎるとの感想を持ったばあいに「それは子供を育てた経験がないからだ」と、自省しなければならない気配を持っている映画は、やや疲れる──のである。

加えて俳優の声優使いに疑問が残る。
この映画は、海外では、もののけ姫やハウルに並ぶ称賛にあるのだが、その理由はよく解る。
子が親を離れる、親が子を離れる、そこを目指して、ぴったりそこへ着地するシナリオは見事というほかないし、雪原を滑り落ちるシーンの昂揚はアニメを逸脱する映画的ダイナミズムにあふれている。

だが、細田守は、宮崎駿よりも、安直な理念で、俳優の声優使いをしている──と思う。もののけ姫の田中裕子や美輪明宏や小林薫には魂があった。
反して細田アニメは、どれも、もっと巧い声優がいるでしょうに──の印象を拭えない。海外での高評価はそれを裏付けている──ような気がした。

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津次郎