「子どもと一緒に見るには難解すぎる作品」グスコーブドリの伝記 覆面A子さんの映画レビュー(感想・評価)
子どもと一緒に見るには難解すぎる作品
私は宮沢賢治の「雨ニモマケズ」がすっごく好きなのですが
どの下りが一番好きかって言ったら
「褒められもせず、苦にもされず」
「みんなにでくの坊と呼ばれ」
「いつも静かに笑ってる」下り。
「雨ニモ…」は偽善的な詞に取られがちですが
自己顕示欲を殺し、我を消して
「ヘラヘラと笑ってる」のが理想って、
よほどの解脱した懐深さが必要かと考えられます。
元々は発表する気がなく、あくまで「作家メモ」だったらしい
この詩の中において、「自分のパーソナリティを殺すこと」について
言及する賢治の追求心は真摯で切実だったように思います。
ケンジ、あたしには出来ないよ、無理!って
この詩を読み返すたび、学生時代から良く考えてた位で(笑)
年寄り手伝うとか、粗食に耐えるとかの
レベルじゃない、聖書に似た考え。
宮沢賢治は仏教思想が色濃いというけど
「善意は人に見えない所で」的な発想は
「自己犠牲」という思想以上にキリスト教っぽい様に思います。
…ということで、到底出来はしないけど
己の浅さを向き合わせる鏡として
心の傍においておきたい作品なのですね。
ってまぁ長ったらしい前置きのもと、
「グスコーブドリの伝記」は
そんな賢治ワールド全開なお話なのですが、
正直、小学生以下を連れていく作品じゃないと思いました。
話が難解で哲学的すぎる内容です。
でも、いつものごとくダメ母な私は、
「子供には難解すぎる!」と文句タレつつ、
我が子よりも先に落ちかけてしまい、
案の定、娘につつかれて起きるのですが(苦笑)
この映画の不思議ワールドの不思議たるや
上映終了後、話が分からないと不満を語る
小学1年生位の息子に彼の父親が
「確かにお父さんも分からなかった!」って
言わしめていたほどで
で、結局?的な割りきれない不可解さで
エンドロールを迎えます。
感想を言えば
絵は手塚プロ肝煎りだけあって無条件にきれいで、
映像の素晴らしさを観るだけでも一見の価値があります。
スタジオジブリに優るとも劣らない明媚さ。
佐々木蔵之介さんはいつも通りなセリフ回し。
草刈民代さんの毅然とした母親像も
そのりりしい顔が浮かびます。
何故父は「遊びに」行くのか。
何故母は、子を置き去りに家を出るのか。
その答えはブドリの思想に受け継がれ
彼の生き方、ひいては映画のテーマに反映されています。
反映されてはいますが、作品は賢治を追うあまり
この映画を観る子供を置き去りにしている気がしました。
この映画のターゲットは誰かと言えば
宮沢賢治ファンと手塚プロファン、
小栗旬ファンが主体かも?
もっと大衆向けに分かりやすく描くことも…
例えば妹に関しての後半の扱いで明るさを出すことも
出来たと思えますが。(原作部分割愛)
この映画は良くも悪くも賢治ワールドの「行間を紡ぐこと」
のみに必死になってる気がしました。
宮沢賢治の色は強く出ていると思いますが。
些末な箇所に関しても
個人的な解釈をのべたいとも思いますが
自分が考える通りの見解は
我が娘に押し付ける事も憚られた位なので、
のりしろ部分はご自分の解釈で。
ブドリのふとした表情が小栗さん的でした。
最後になるけど
ブスコージドリ?
グスコージブリ?
ジスコーグブリ?
いまだに言えないその名前は、
やっぱりエスペラント語から来るのかしら。
岩手をイーハトーブとした様に
グスコー何とかも意味があるのかと
エスペラント語辞典とか探して色々あてはめましたが
答えは出ませんでした。
タイトルにある不可解で暗号みたいな文字は
作品中、いろいろな場面で出てきますが
ローマ字を賢治ワールド的に装飾したもので
深い意味はなさそうです。
でも、この映画で一番話題になりそうなのは
この独特なアルファベットの様な字形だと思います。
そこをもっと展開して欲しかったかな。
これでオリジナルキーホルダーとか出来たら良かったのに。
いつだって子供が好きなのは暗号文。
友だち同士で楽しめる様な面白い話題になったのに
とても残念です。