「演出はサスペンス。内容は人間ドラマ」マージン・コール つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
演出はサスペンス。内容は人間ドラマ
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大規模リストラが行われている中でケビン・スペイシー演じるサムは、飼い犬の治療費に1日1000ドルもかけたのにダメそうだと嘆く。失業者が出ている横でのこの発言は自分の金にしか興味を示さない非情な男に見える。このときは。
サムは勤続30年以上だという。サムにとって会社は家族だ。家族を守るため非情なリストラも敢行してきた。
他の経営陣には地位や金を守るため行動する自分たちと同じに見えていても、守りたいものの根幹がサムは違ったのだ。
だから会社が死んでしまうラストの強硬策に強く反対した。
冒頭の飼い犬についての嘆きの意味が、いくら手を尽くしても家族が助からないことについての悲しみに変わる。
墓穴を掘らずに済んだという経営者の言葉と対をなすように飼い犬の墓穴を掘るラストのサム。
飼い犬は会社のメタファーだ。サムは物語の中で家族のように大切な会社の墓穴を掘ったのである。
このレビューを書くまで気づいていなかったが、監督兼脚本はJ・C・チャンダーだった。
彼の作品は本作で3本目だが、観た作品に共通することとして、大きな力に翻弄されながらも抗う男を描いていると思う。
もう掴めるものがほとんどなくなった中でも微かに希望を見ようとする力尽きた男。そんな哀しき物語だったように思う。
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