「誰のための撮影か」セルビアン・フィルム KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
誰のための撮影か
不思議な感覚になる非人道的映画。
ジャンル映画の中でも有名かつ登竜門的存在だと認識しているので以前レンタルで観ていたけれど、今回無修正版を大スクリーンで観られるとのことで再鑑賞。
やはり映画においてボカシなんてものは無いに限るなと思った。
女子供がひたすら犯され血を流して死んでいく、容赦ないゴア描写と倫理的にアウトなシーンの連発。
間違いなく恐ろしい映画ではあるけど、観ていてどうも「残酷」とか「残忍」といった言葉がしっくりこない、恐怖に引き込まれてハイテンションで観られる拷問ショー映画とはまた違う感覚になるのが面白い。
空白の数日をミロシュと共に記憶を辿る構成から妙なテンポになり、描き方もどこか俯瞰的。
あのテンションマックスの地獄をリアルタイムで追わない面白さ。
淡々と見せられる行為の数々の凄まじさよ。
全ての暴力に性行為が合わさることで、より嫌悪感が増す。
ただしそこに純粋な性欲や変態性が見られるわけじゃない。
行われる拷問の奥に、「やる側」も「やられる側」も「やらせる側」も特に感情や欲望が見えてこないのが恐ろしい。
監督や製作側の徹底した撮影スタンス、すべて「作品のために」という根本がめちゃくちゃに不気味である。
行為としては比較的地味だけど、マルコのナチュラルな欲望の方がよっぽど純粋で変態的で理解できる。
ミロシュは主人公であり目撃者でもあり、被害者であり加害者である。
彼の思考は常に理性的でポルノ俳優としてプロフェッショナルなところが好き。
出演作から見られるワイルドさと妻子への優しさのギャップも好き。
あまりに無情な結末の潔さが好き。
救いようがない。
食欲と睡眠欲と性欲、三大欲求の中でも性欲ってちょっと異端じゃない?どうしてここまで歪な方向に大きくなれるんだろう。
生きるために絶対不可欠な食や睡眠と違って、快楽や嗜好としても広く発展しているからなんだろうか。
つくづく人間の欲望というものは醜くて気持ち悪くて、だからこそ面白いのかなと思う。
この手の映画はダメージを受ければ受けるほど楽しくなる。シンプルに首切られるのが一番しんどかった。
ああもしかして、楽しく観ている私のために劇中の撮影は行われていたのかもしれない。
芸術的で全く新しいポルノ映画、こんなの誰が観るんだよとか思っていたけれど、私だった。
もし劇中で撮影した作品が単体で公開されたとしたら、絶対観るもんな…。