「とても穏やかで、優しくて、そして楽しかったです。」スープ 生まれ変わりの物語 ぶっきちさんの映画レビュー(感想・評価)
とても穏やかで、優しくて、そして楽しかったです。
映画の中のあの世では、「生まれ変わる」ということが特別ではない事として語られていました。だから客席でスクリーンを観ている私も普通の事として聞いていたって感じました。映画の中のあの世には大勢の人が暮らしていて、仕事をしている人もいるし昼寝している人もいるし、夜は酒場で酒を飲んでいたり、キャンプしたりしていて、あの世にもこの世と変わらない「日常」があると感じました。あの世の日常を生きる大勢の人たちにセリフは無いけど、生まれ変わることについては世間話のように毎日話しているんじゃないかって思いました。スープのことも、「あなたはもう飲んだの?」って、普通に聞いていそうだって感じました。それは、まだずっと遠い未来かもしれないけど、遠い未来のこの世の風景になるかもしれないって思いました。
いろんな場面で泣いてしまったけど、最後の娘さんとのシーンは、ただもうせつなくて感動して泣いてしまいました。周りからも鼻をすする音が聞こえました。あの世に行ったばかりの渋谷が、最初は本当に落ち込んでいて生気がなくて、だけどどんどん生き生きしてきて覚悟を決めた表情になってきたように、三上も最後にはあんな感情のこもった笑顔をするようになりました。それが印象的でした。男から女に生まれ変わった瞳ちゃんも、記憶に男らしさを秘めながら、今世で生き生き女やっているって思いました。
映画を見終わって、映画館の外に出て横断歩道を渡っている時に、映画に出てきたのとそっくりの柴犬とすれ違いました。その犬は何度もご主人の顔を見上げながら歩いていて、それがとても幸せそうで、あの世の犬も幸せな来世を送っているんじゃないかって思いました。
鼻笛がとてもよかったです。酒場の裏口辺りで、暗くて空気が淀んだような雑多な雰囲気が漂っているのに、鼻笛の音色がその場の空気を涼しく透明に変えていくようでした。もっと聞きたかったですが、短くてもとても印象的でした。