「本当のスパイ」アルゴ キューブさんの映画レビュー(感想・評価)
本当のスパイ
ベン・アフレック監督長編3作目。前2作は良くできたサスペンスだった。さすがに3作目となると、できの善し悪しも出てくるのではないかという不安があった。しかし杞憂に終わった。それどころか彼の監督作では一番の完成度を誇る傑作だった。
今回ベンが演じるのはむさ苦しいCIAエージェントのトニー。髭はぼうぼうで、着ている服も若干よれよれだが不思議とこれが似合っている。「ザ・タウン」の彼ははっきり言って役柄にフィットしていなくて、せっかくのサスペンスがたまにメロドラマになっていた。だが「アルゴ」の彼はやり手だが、内省的で天才肌というよりは努力家のエージェントだ。だからこそ彼自身の身の丈にぴったりと合ったのだろう(ただし本物のトニーはラテン系のアメリカ人。この部分を無視したのは頂けない)。
その彼の脇を名優たちが固める。アラン・アーキンとジョン・グッドマンは映画で唯一心温まる存在。CIAの外部から作戦を手助けするのだが、この「アルゴ」の製作過程が意外と面白い。一見すると馬鹿げているのに、本気で製作(に見せかける)しようとする彼らの姿はまさにスパイ映画と同じだ。
だがなんといっても、トニーが単身イランに乗り込んでからが俄然面白くなってくる。入国した瞬間から画面は異様な緊迫感に包み込まれ、不穏な空気を漂わせる。実際の映像とほぼ同じように作り込んでいるから、リアリティに溢れている。特に大使館が襲撃されるシーンは本当に恐ろしい。デモが暴動へと変わる瞬間を上手く描いている。
そしてトニーと6人の外交官は脱出へと踏み切る。誰も銃を引き抜くわけでも、変装マスク(軽く服装は変えるが)も着用しない。だけどその脱出劇は最高にスリリングで、並大抵のスパイ映画を凌駕する。結末はだれでも知っているが、ここから先はあえて触れないでおく。是非自分の目で確認して欲しいのだ、手に汗握る最高のサスペンス映画を。
(11月23日鑑賞)