プンサンケのレビュー・感想・評価
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仏頂面で、こんにゃくを語る
韓国映画界の異端児、キム・ギドクが手掛けたオリジナル脚本をベースに置いた作品を、「ビースティ・ボーイズ」のユン・ゲサンを主演に迎えて描く群像劇。
想像してみてほしい。日本の任侠映画にて、「奥歯ガタガタ言わすぞ、コラ」と巨大なチェアを陣取って叫びそうな強面の男。彼は、何を話しかけても笑わない。そんな一人の男が、刺すような睨みを利かせて「こんにゃく」を語っているのだ。
「くにゃっとしてよ、タレ・・とか、きな粉かけて食べる。梅とか、混ぜ込んでんのよ」
もう、私達はその男の話から離れる事ができない。「・・糸、こんにゃくってのもある」「・・へえ」話がどうっていう事ではない。語る状況がすでに事件なのだ。深刻なストーリーを深刻に語っては芸がない。深刻に、硬いテーマをいかに叩き壊し、ぐにゃぐにゃとしたユーモアでくるめるか。そこが、聞くものを引っ張り込む不思議な魅力が生まれるか、否かの分岐点だ。
その点においては、本作は大いに成功していると言えるだろう。北朝鮮と韓国、我が国日本からも注目を集めている38度線の歴史、現状という深遠な政治的テーマを掲げる本作。観客は、黒ずくめの「奥歯ガタガタ」おじさんの巨大チェアの前に、緊張の面持ちでたちつくす事になる。怖い・・面倒だ、いざとなったら、逃げる準備は出来ている。
だが、その混沌としたテーマに身構えた観客は、いきなり面食らう。冒頭こそ韓国映画らしいアクションと政治を織り交ぜたスピード感に満ちるが、物語は易々とはいかない。恋愛色、ファンキーなカーアクション、会話劇、何やらエロ。もう、しっちゃかめっちゃかなちゃんぽん劇場が展開される。
「なんじゃ、これ?」観客は戸惑いながらも、この奇天烈な政治ドラマの暴走から目が離せない。「どうなる?どうする?」思いもかけない「こんにゃく解説」が、熱を帯びる。「きな粉って・・甘いんだぜ!!」
その極めつけが、クライマックスの密室劇である。政治的に繊細なテーマを、強引にコメディに落とし込んで苦笑いへと誘い込む。簡単そうに見えて、これは相当な技術と聡明なセンスが要求される演出術である。現に私達観客は、このクールなコメディを馬鹿にせず、そこに作り手の美学を見る。
「どうなる?どうする?」の好奇心の中に、静かに38度線の迷宮が忍び込む。「こんにゃく」はいつのまにやら、人間の心の機微へと昇華する。これぞ、映画人が目指すべきシリアスドラマの到達点ではなかろうか。
前作「アリラン」において、シリアスな自問自答ドキュメンタリーという形を取りながら、「俺って、こんなに格好良いんだぜ!」と自画自賛に浸る変態映画を世界に叩き付けたキム・ギドクのハイセンスなユーモアに満ちた一本。作り手の新しい(いやらしい)可能性を感じさせてくれる意欲作だ。
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