「ある動物園をめぐる奇跡と軌跡」幸せへのキセキ REXさんの映画レビュー(感想・評価)
ある動物園をめぐる奇跡と軌跡
実話に脚色を加えたハートフルな映画。 妻を亡くした悲しみから立ち直れない男 が失業し、同じように悲しみから心を閉ざしている長男と、明るくムードメー カーな幼い娘をつれて心機一転引っ越しを決意。 心惹かれた物件は、実はオーナーがいなくなった動物園で――。というお話。
衝動的に動物園を買ったベンジャミンが、素人のオーナーとして動物をどう扱っていくかという運営ノウハウよりも、ベンジャミンが妻の死をどう受け入れ、乗り越えていくかという心のドラマの動きに焦点が当てられている。
マット・ディモンが等身大の男を、こっ てりでもなくあっさりでもなくまさに丁度いい自然体の演技で魅了する。 開園準備へ四苦八苦しながらも、時間が空くと妻のことばかり考える。 悲しみを忘れるため勝手に奮闘する父との溝を感じ、孤独感を強めていた長男ディランとの情感のこもった口論の場面は思わず落涙。
キャメロン・クロウ監督の作品はどこか青春の刹那的な雰囲気が漂って好きだ。 陽の光、芝生に遊ぶ動物の美しさ、雨が葉にしたり落ちる様子がきらきらして。 小さな動物園という世界を守る小さな喜びというか。 動物たちを眺めているあいだの小さな幸せというか。 初めて動物園に訪れたベンジャミンの感動が、手に取るように観客の心に入ってくる。
この映画が平凡にならないのは、ベンジャミンとケリーが簡単に恋に落ちず、 最後までベンと亡き妻の心の絆を大切に扱っているところ。 辛くて行けなかった思い出のレストランで、子ども達の前で「出会ったとき」を再現するシーン。
ラストで初めて、ベンが困ったとき「それじゃいけない?」と言う口癖が、亡き妻と関係していたことがわかる。
他の登場人物もやり過ぎないほどユニークなのもいい。したり顔で抜き打ち検査に来る天敵 「フェリス検査官」の不思議な手の動き (これは後にケリーとベンの内輪ネタに)。 後先考えず余計なことばかり言うベンの兄。 飼育員たちがなぜか全員70年代ぽかったりとか(監督の趣味かも)。
この映画は、【あの頃ペニー・レイン と】とに通じる爽やかさがあった。 一般人が動物園を買うといういかにも映画的な荒唐無稽なお話を、てらいのない瑞々しさで描ききった。