「邦題より原題がしっくり深い」最強のふたり isleさんの映画レビュー(感想・評価)
邦題より原題がしっくり深い
触れることが出来ない
触れてはならない
社会ののけ者
扱いが厄介なもの
ふたりに限らず登場人物みんなUNTOUCHABLEなものを抱えています。
オールドミスや同性愛、養子に離縁、失業・貧困・前科持ち、人種差別、そして障害。
そして観覧者自身のUNTOUCHABLEなものが思い当たる。
自分ではどうしようもないこと、悪いこと、恥ずかしいこと、上っ面だけを取り繕った偏見、踏み込んで欲しくない領域。
抱えながら生きているからこそ、笑いや寄り添う気持ちの尊さを重さや温かさを伴って実感させてくれる映画。
冒頭の導入シーンが後半再び登場する時に仕草や視線の意味合いが深まり実感に熱が帯びてくる。
フィリップの蓄えているヒゲ、触れさせず壁を作って過ごしてきた時間。
そして富豪フィリップの所有する車は、ロールスロイスでもなくメルセデスでもなくポルシェでもなく官能的なフェラーリのセダンであるマセラティ。フランス映画なのにフランス車でもない。
マセラティは素直に直球勝負の心地良さ、単なる高級車と上っ面だけ理解すると吹っ掛けられた絵画を掴まされる。マセラティは実用的ではないと解釈してしまうと白衣を来た人に荷台に乗せられる。みんなそれぞれ頑張っているのに悪意があるわけでもないのにUNTOUCHBLEなものや関係を増やしてしまう。身につまされる人間の業。
絵画、オペラ、音楽、ダンス、そして車と、すべて人間そのものを表現する手法。文化背景の深さ、すなわち人間理解の深さがにじみ出てくる。あのオペラの演目、どのような位置づけなのだろうか、ドイツ語に対するフランス人の解釈を知りたい。もっと造詣が深ければなぁと思い知らされる場面が多数。
そんな私でも、登場人物も、選曲した作成側も、アースウィンド&ファイアには心が震える。UNTOUCHABLEの壁を乗り越える瞬間が分かち合える。素晴らしい演出。
決してコメディ映画ではない。真剣・素直・率直だと人間は滑稽なものであることを気づかせてくれる映画、だから自然と劇場内が笑いに包まれる。真剣であるほど臆病になり、素直でいる難しさ、率直な言動の場違い。人間らしいから可笑しく笑ってしまう。UNTOCHABLEを抱えているからこそ、こみ上げてくる抑えられない笑い。
また、泣いてスッキリする感動映画でもない。ハッキリ決着リセットされるわけでもないので。
黒人ドリスが負のサイクルから抜け出すキッカケは、思いつきと思い込みで描いた絵画。一歩目はやっぱり自力でチャレンジする気持ちと行動。次に協力者の順番なんですよね。
ドリスが駐車違反者を諭す諭し方の変化に希望があり、相性の良さを超える絆までも築けた召使いを手放せる矜持を持ったフィリップに尊厳がある。
生き様に感動し、余韻が続く…。
ハリウッドリメイクの謳い文句が付いているが、ドリスの絵を投機買いした場面とダブる。この作品はこのままでいいんじゃないのかな?
フランス国内の抱える社会問題を見せてくれましたよね。
それより僕はフィリップの『彼は私が障害者だなんてことをお構い無しに付き合う』(だったか?)という言葉が印象的です。