劇場公開日 2013年1月18日

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アルバート氏の人生 : インタビュー

2013年1月17日更新

グレン・クローズ、30年にわたる情熱が結実した「アルバート氏の人生」

グレン・クローズが30年の年月を費やした情熱の作品「アルバート氏の人生」が、ついに日本で公開される。1980年代にこの役をオフブロードウェイで演じたクローズは、この映画で、主演のほか、製作、脚本も務めている。この作品にかける思いを、ロサンゼルスで聞いた。(取材・文/猿渡由紀)

(C)Kaori Suzuki
(C)Kaori Suzuki

物語の舞台は、19世紀のアイルランド。主人公のアルバート・ノッブス(クローズ)は、女性でありながら、生計を立てるために男性として生きる道を選ぶ。もちろん、そんな彼女の秘密を知る人は誰もいない。

「オフブロードウェイでこの役を演じたのは、まだ私のキャリアの初期の頃だった。なかなかめぐりあえないような、魅力的で複雑なキャラクタ−を演じる機会を得たことに興奮したのを覚えているわ。ストーリー自体はとてもシンプル。でも、その奥にはいろいろな要素が潜んでいる。究極のところ、これはサバイバルについて、そしてアイデンティティについての物語なの」

原作は短編小説。映画化権を取得したのは、クローズがプロデュース業に乗り出してまもない90年代初めだ。

「それからずっと、資金集めをして、やっと集まったと思ったら崩壊するということの繰り返し。10年前に一度、本当に実現しそうになったのよ。撮影のためにダブリンにまで行ったのに、潰れたの。インディーズ映画を作るのは、トランプを組み立てて家を建てるようなもの。1枚倒れると、全部が崩れてしまう」

プロデューサーでもあるクローズは、今回も、ようやく集まった限られたバジェットをいかに有効に使うか、苦心し続けた。撮影中、肺炎にかかっても、スケジュールがおして予算に影響を与えないように、たった1日休んだだけで仕事に復帰したという。

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「たまたま、アイルランドは30年で一番寒い冬を迎えていたの。おかげで病気になってしまったけど、1日しか休まなかったわ。もっとも、そんなことをしたのは初めてじゃないわよ(笑)。仕事をしている時は、とにかく必死になっている。睡眠不足も気にせず夢中で働いているの。こういう限られた予算の作品だと、特にね。だからすべてが終わった後には、倒れてしまうのよ。ロケ場所にも工夫したわ。私たちは1カ所ですべて撮影できるような、大きな建物を探して、ダブリン中をロケハンした。1カ所で撮影が済めば、お金が相当に節約できるからよ。さらに、撮影が始まる前に、これはいらないというところはどんどんカットした。撮りたいと思って撮ったのに、編集の段階で切り捨てることになったというのは、映画製作のプロセスで常に起こること。どうせ捨てるのなら、最初から撮影しないことでお金を節約できる。ストーリーがしっかり決まったら、バジェットとのバランスを見ながら厳しく判断をしていったわ」

女性が男装をするというのは、ひとつ間違うと悪趣味になりがち。それだけに、ヘアとメイクには、細心の注意を払った。

「ヘアとメイクのテストには、たっぷりと時間をかけた。この役をやっても大丈夫と自分に対して証明する目的もあったわ。観客に『見て、あれ、すごいメイクしているね』と思われてはいけない。あくまで自然でないと。かつらにしても、鼻にしても、私たちはさんざんいろんなものを試し、なるべく自然に見えるよう、少しずつ工夫を重ねて決めていったの。撮影中は、ヘアとメイクを施すのに、毎朝2時間半かかった。でもそのプロセスも、役に入っていく上で助けになったと思う」

(C)Kaori Suzuki
(C)Kaori Suzuki

そんな努力と情熱は実り、昨年のアカデミー賞で、クローズは主演女優部門の候補に挙がった。ほかにジャネット・マクティアが助演女優部門、メイクアップアーティストたちもメイクアップ部門で候補入りしている。

「あれは、とても素敵な出来事だったわ。30年間の長い旅を終えるのに、あれ以上に理想的な結末はないもの。ひとつのことを達成させてみせたという満足と祝福の気分で胸がいっぱいになったわ。でも、その一方で、『どうして(プロダクション・デザイナーの)パトリツィア・フォン・ブランデンスタインはノミネートされなかったの? 撮影監督のマイケル・マクドナーは?』とも思ってしまったんだけれど(笑)。みんなすばらしい仕事をしてくれたから、みんなにノミネーションを受けてほしかった」

ところで、この映画には、小さな役でクローズの娘が出演している。

「チョコレートショップのウエイトレスを演じているのが私の娘なの。彼女は女優を目指して、最近ロサンゼルスに引っ越してきた。有名人の親をもつ友だちはほかにもいるようだけど、それは必ずしもプラスにはならない。そのせいで、より厳しい目で見られたりもするわ。でも、彼女にはやる気がある。厳しい世界だけれど、彼女自身が満足のいく場所に行き着けることを願っているわ

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