「日本の小説をカンボジアに置き換え映画化」飼育 ローチさんの映画レビュー(感想・評価)
日本の小説をカンボジアに置き換え映画化
大江健三郎の同名小説を、カンボジアに置き換え映画化した作品。ドキュメンタリー作家のリティ・パン監督にしては珍しい劇映画だ。舞台を、太平洋戦争時の日本からポル・ポト派が台頭するカンボジアに置き換え、戦争に協力する少年たちと墜落した黒人米軍兵の奇妙な関わり合いを描く。イデオロギーに洗脳された少年たちが屈託ない表情で黒人兵を虐待する光景が恐ろしい。
しかし、やがて少年たちと黒人との間に親愛の情が湧いてくるが、悲劇は襲いかかる。カンボジアの緑豊かな村で撮影しているが、出演している少年たちは現地の村の子どもたちだそうで、自然な佇まいは映画に強いリアリティを与えている。
カンボジアはかつて映画大国だったが、ポルポトの時代に多くの映画作家が殺された。リティ・パン監督は断絶した歴史をつなぐべく、本作に挑んだのだろう。東南アジアの現代史における悲劇を力強く描いた傑作だ。
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