「詐欺映画としては色々と粗さが目立つけど、作品としては悪くない」カラスの親指 Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
詐欺映画としては色々と粗さが目立つけど、作品としては悪くない
総合:65点 ( ストーリー:60点|キャスト:65点|演出:60点|ビジュアル:70点|音楽:70点 )
全体に粗い部分が目立った。特に闇金融の事務所の仕掛けのくだりの演出はひどい。簡単に扉が開いてあっさりと内部に入り込めるし、闇社会の人間たちが突然の銃一つでみんなびびっちゃって、反撃もしなければ盗まれた現金を追いかけようとすらしない。
そもそもあの短時間でどうやって石原さとみが廊下から下に落ちたことに出来たのだろうか。これが詐欺のために落ちたことにした演技だというのは最初からみえみえだったけれど、その設定を劇中の中でどう実現したのかやり方がわからない。本当に落ちたのならば降りられるだろうが、詐欺のための落ちた演技なのにどうやって下まで短時間で誰にも見られずに降りられたのかが説明が無いし、それにもし闇金融の男に追いかけられていたらどうやって落ちたことにするつもりだったのか。
そしてみんなが見ている前であんな大騒ぎになれば、住人の誰かが警察を本当によんだはず。ではその警察の調査をどうやってかわしたのだろうか。いくらなんでもこんなお粗末な計画が成功する筈がない。競馬場と闇金の件に関しては視聴者を騙そうとする手口はまるわかりだし、闇金の事務所への侵入は緊迫感なんてないし、観ていて馬鹿馬鹿しさを感じずにはいられない。
物語も非現実的。いくら村上ショージが計画的に仕組んでいるとはいえ、それでも偶然に娘が二人の目の前でスリをして、その後に一緒に楽しく住むことになったなんてすごく強引。しかもその後にみんなが危険な橋を渡って仲良く一緒に詐欺をすることになって上手く人生を見つめ直せるなんて、あまりに出来すぎです。大きな詐欺をするときに、最初から最後まで、思うとおりに人が動いてくれるなんて有り得ない。大傑作『スティング』では、何か計画通りにいかないことが起きた場合にはすぐに計画の修正の動きが入っていたが、それなのにこの話は計画通りになることによってのみ成り立っているのである。
闇金融での突然の銃を持ち出すくだりはすぐに裏事情も読めてしまって驚きが無いし、詐欺の話としては期待はずれ。一軒家での共同生活が始まる部分は、伏線貼るのに忙しいのは分るが間延びしてしまって、無駄に時間が過ぎている。
登場人物の演技については、石原さとみの演技は大袈裟だし、村上ショージははまり役とはいえども演技が下手なので、配役には65点。ただし阿部寛と能年玲奈は良い出来だった。ちなみにこの作品は『あまちゃん』の前に制作され、まだ無名の能年は審査で合格して役を掴んだらしい。意外なところでは、『踊る!さんま御殿』の再現劇によく不細工な人の役でよく登場する女優さんが今作品でも劇団員役で登場しているのが観れて、驚きつつも嬉しかった。この女優が市川佳代子という名前なのを初めて知った。
欠点は多いこの作品だが、決して嫌いではない。それは阿部寛の過去を取り上げ、人物像を掘り下げているから。自分自身が加害者になって人の運命を狂わせてしまったという心の傷が癒されていき再生していくのが、物語の無理やり感がいっぱいとはいえども悪い気がしなかった。