「ファッション界の歴史」ビル・カニンガム&ニューヨーク いずるさんの映画レビュー(感想・評価)
ファッション界の歴史
陽気で社交的なビルカニンガム。
ファッションがすべて、「私生活何てあるのかしら?」と周囲に疑問に思われるような彼の生活に密着……と言ってしまえば簡単ですが、彼は社交的に見せて誰にも心を開かない、というような感じ。仕事仲間には彼と一緒に夕飯を食べるような人がいるかどうかも分からない……
なのに、ここまで密着できたことはすごいと思います。家に招かれ、友人を紹介され、新しい家選びにもカメラを入れることを許可してくれ、おそらく彼が人生で一番大事にしている仕事、パリのファッションウィークやパーティー会場でセレブのファッションを撮影する現場にも同行させてくれました。
監督がたった一年で入り込む――といったら言い方が悪いですが、たった一年で克明にビルを映し出せた、快挙です。
彼は長年ストリートファッションを撮り続けて、記録し続けてきた人。
彼に撮られたものが流行となるのか、それとも彼が町で流行を見つけるのか、は意見が分かれるところでもあります。
ビル自身は街で見つける、と言い、周囲の人はビルが影響を与える、と言います。
おもしろいですねー。
長年ファッション写真を撮り続ける、ということは、それを受け入れ必要とした社会があったということ。
このような下地があるのをうらやましく思います。
洋服ってやっぱり西洋の文化。
カーネギーホールは、かつて芸術家たちがあつまりアトリエを開いたり、店を開いたり、バレエホールにしたり、様々な形ではあれども『芸術家』があつまってくる場所で、彼らのサロンのようなものでした。が、資本主義社会の利潤追求によって芸術家たちは追い出され、一等地にふさわしい会社がどんどん入ってきます。ドキュメンタリー撮影当時にアパルトマンに残っていた芸術家はビルと、写真家のエディッタだけ。
退去を迫られる長年住み続けた家、そのとても小さな部屋にはキャビネットがぎっしり。すべての写真のネガが保管されています。歴史が詰まった場所です。
彼は「恋をしたことがない」と言います。
それは強がりなのか、それともほんとうにそうなのか、
それとも本当にそうな自分に悩んだ結果吹っ切れたのか
何故涙ぐんだのか、何故教会に毎週日曜日いくのか、
というのは彼本人だけが知っていればいい事実で、
そこを知ろうと思うのは好奇心でしかない。
だから、知らないでいい事実です。
面白くて、良いドキュメンタリーでした。画角が素晴らしい。
パンフレットには『ポートレートを意識した画面作りにした』と書いてありました。意図した通りに退屈させない。