劇場公開日 2017年7月1日

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「初作に匹敵する大傑作!」パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊 アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0初作に匹敵する大傑作!

2017年7月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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間違って吹き替え 2D 版を鑑賞。このシリーズの初作「呪われた海賊たち」は 14 年前の公開で,ディズニーランドのアトラクションの一つであるカリブの海賊を映画化したものである。当初はシリーズ化の予定はなかったのだが,予想外の大ヒットを記録したため,第2作と第3作をほぼ同時に制作することが決まり,初作から3年目と4年目に第2作「デッドマンズ・チェスト」と第3作「ワールド・エンド」が立て続けに公開された。だが,初作の単純明快さが失われ,闇雲な世界観の複雑化と,訳の分からない話の展開に陥ったため,2作目と3作目の評判は散々であった。エリザベス役のキーラ・ナイトレイがさらなる続編への出演を断ると表明し,第3作の結末によってウィル・ターナー役のオーランド・ブルームも出演困難となったため,第4作「生命の泉」は第3作から4年後の公開となり,過去3作と全く関係のない話にせざるを得なかった。もう続編はないのかと思っていたが,第4作から6年を経て今作「最後の海賊」が制作された。原題は “Dead men tell no tails” で,「死人に口なし」と言った意味であり,ディズニーランドのカリブの海賊で掛け声として使われている言葉の一つである。

私は第1作を映画館で7回くらい見たほど気に入ったが,これまでの続編は全くリピる気にはならなかった。やはり続編は初作を超えられないのかと思っていたが,今作は,初作に匹敵する傑作だと思った。初作の優れていたところは,ルールが非常に単純であったことで,物語がその単純なルールをうまく利用して構成されていた点であった。第2作と第3作はそれが完全に失われ,出来の悪いシナリオ学校の卒業作品のようになってしまったのが非常に残念であったのだが,本作では見事にルールが簡素化され,それに従った非常に良質な物語が展開されていた。第4作でも,聞いたことのないラスボスが出てきたように,本作のラスボスもまた初登場である。これはまあ,仕方がないと思う。ジャック・スパロウの若い時に敵対した相手という設定にしてうまく逃れていたと思う。

映像は初作の CG の使い方が見事で,決して表に出ることなく,呪われた姿をリアルに見せるなどの黒子に徹していたのが好ましかったのだが,第2作以降はグロい方に志向が変化し,フジツボだらけのウィルの父のビル・ターナーやイカやタコを冠ったようなデイヴィ・ジョーンズや,巨大なクラーケンや夥しい数のカニなど,悪趣味としか言えないところに力を注いだのが全く気に入らなかった。その点,今作はその悪趣味が一掃されたように思える美しい映像が多くて,見ていて楽しいばかりだった。また,第3作でやたらと出てきた某国人キャストが一掃されたのも清々しかった。

今作の物語は第1〜3作の世界を踏襲しており,過去の様々なエピソードを伏線と化して,それらを見事に回収して見せてくれた脚本は,実に素晴らしい出来だと思った。このような人に第2〜3作もお願いしたかったとつくづく思わされた。思いがけず胸に迫るような展開もあり,まさかこのシリーズでうるうるさせられることになるとは夢にも思わなかった。どこかで味わった感覚だと思ったら,ドラクエ3で初めてエンディングを見たときと同じような感じだと思い当たった。ドラクエ3のエンディングで感動を味わうには,1と2を先にクリアしておくことが前提だが,本作も,第1〜3作を見ておかないと,有難味は半分も味わえないだろう。

ジョニー・デップの怪演は相変わらず健在で嬉しかったし,サプライズのキャストが目白押しなのにも痺れた。第3作のキース・リチャーズに続いて超大物ミュージシャンがカメオ出演しているのも見ものである。特に驚いたのは,ジャックの若い時を演じた俳優である。てっきり CG だろうと思ったら,生身の俳優であった。あまりに似ているので驚いた。これなら,彼を主役にして,ジャックの若い頃の話でまるまる1本撮れるのではないかと思ったほどである。

音楽は,これまで聞いたことのない人だったが,サントラ CD の解説によれば,過去4作にも作曲で参加していたスタッフの一人だそうで,主要な曲を何曲か書いた人だそうである。確かにそのせいか,これまでの主要な曲をモチーフにしたアレンジが見事であったし,本作で初登場するキャラのために書かれた新曲も,既存の曲に違和感なく溶け込んでいたように思われた。映画を観終わってすぐにサントラ CD を買い求めたなどということは,私には滅多にないことであった。

監督は,これまでの4作に全くタッチしていなかった人のようだが,これまでの世界観を大切にしようという姿勢が好ましく,また本作独自の演出も見事にこなしているところなど,老練な手腕を感じさせた。驚いたことに,ノルウェー生まれの 45 歳で,本作が映画監督は4作目という人だそうだ。将棋の連勝新記録を樹立した中学生プロ棋士藤井四段のように,世の中にはまだまだ計り知れない人材がいるものだと痛感させられた。久々にリピりたくなるほどの出来の良さで,とりあえず,字幕版を早く見に行きたいと思っている。なお,エンドロールの最後におまけ映像があるので,最後まで席を立たないことをお薦めしたい。
(映像5+脚本5+役者5+音楽5+演出5)×4= 100 点。

アラ古希