「ダメな部分の多い三作目」アイアンマン3 kobayandayoさんの映画レビュー(感想・評価)
ダメな部分の多い三作目
2013年5月上旬にTOHOシネマズ六本木ヒルズのスクリーン7にて3D版をオールナイト上映で鑑賞。
2012年夏に世界中で大ヒットした『アヴェンジャーズ』で2008年の『アイアンマン』から始まった“マーヴェル・シネマティック・ユニヴァース(MCU)”の“フェーズ1”が幕を閉じ、その興奮と熱狂が冷めやまない形で“フェーズ2”の最初の作品として本作『アイアンマン3』が製作され、前二作のジョン・ファヴロー監督は製作に回り、それらにアドバイザーとして関わっていたシェーン・ブラックが監督と脚本を担当する形で、話を発展させています。
“アヴェンジャーズ”の一員としてニューヨークでチタウリ星人と戦い抜いたトニー(ロバート・ダウニーJr.)は、その戦いを通じて、次の脅威に備えて、新型スーツの開発に没頭し、精神的に崩壊し始めていた。そんななか、トニーの運転手だったハッピー(ジョン・ファヴロー)が爆弾テロに巻き込まれ、瀕死の重傷を負い、親友に深手を負わせたテロリストのマンダリン(ベン・キングズレー)に対して、トニーは挑戦状を叩きつける(ここまでが粗筋)。
世間ほどではないですが、『アヴェンジャーズ』は楽しめた方で、MCUの過去作も『インクレディブル・ハルク』を除いて、全て満足していたので、フェーズ2の始まりである本作への期待が高めな状態で観てきました。シリーズ物の三作目で監督が代わる事はよくあり、今までの監督がノータッチな事も多く、色が変わりがちですが、監督はしなくても、ファヴローは携わり続け、今回のブラック監督も過去作に関わっていたので、作品のトーンは少し暗めとなり、『アイアンマン2』が内容的に明るすぎた為に、このトーンには若干の違和感があるものの、そんなに悪いものではなく、『アイアンマン』の序盤の武装ゲリラにトニーが拉致される件ほどシリアスでも無いので、本作が昨今の流行りのシリアス要素を取り入れなかった事は、そういうのを好まない自分には良いところだと思いました。ブラック監督が『リーサル・ウェポン』シリーズや『ラスト・アクション・ヒーロー』の脚本家だった為にクライマックスの舞台がタンカーだったり、随所に古臭い笑いが入っているというのも、面白い部分で、映像や内容は現代なのに、90年代風な要素を垣間見れるという事で懐かしさも感じさせ、『アイアンマン』との繋がりを持たせる点で一作目で語っていたスイスでのパーティのシーンに医師のインセンをショーン・トーブが再演する形で登場しているのも好感が持てたところです。しかし、作品そのものは非常に退屈で、ネタ切れを感じさせる内容という印象を持つほど、残念な一作となりました。
色は変わっていないのに、シリーズ物の三作目にありがちな失敗のパターンに陥っているところが多く見られます。その一つは印象的な悪役の不在で、一作目のラザ(ファラン・タヒール)、オバディア(ジェフ・ブリッジス)と彼が操るアイアンモンガー、二作目のアイヴァン(ミッキー・ローク)とジャスティン(サム・ロックウェル)と沢山のドローンたちは何れも容姿も存在感も大きく、それぞれが忘れられないぐらいの活躍を見せていましたが、本作はそういうのが居らず、“エクストリミス”の力で進化した敵が大勢現れても、忘れられないぐらいの存在を見せたキャラは一人も現れず、このシリーズで初めてパワードスーツを使わない敵の登場、『アヴェンジャーズ』の大ヒットによって、天下無敵のシリーズとなり、超大作路線の道をひたすら突き進んでも可笑しくないのに、今回の敵のヴィジュアルがMCU以前のマーヴェル作品を思い出させるB級センスが炸裂していて、今風じゃないことを大胆にやってのけているのに、それが全く活かされていないのは非常に勿体無く、この敵の不在は話の盛り上がりを失っているので、そこに痛々しさを感じさせます。二つ目は映像が汚く見えることで、今回は前二作や『アヴェンジャーズ』に参加したILMが未参加で、WETAデジタルがVFXを担当しているのですが、世界最高のVFX企業のILMの不在により、映像そのものが軽々しく見え、今までにあったパワードスーツの“本当に存在している”と思わせる重厚感が薄れ、CG臭さが諸に現れていて、そこにリアルさは感じず、クライマックスでは沢山のスーツが大集合して、ド派手にアクションが展開されるのに、今までのような映像の創意工夫が感じられない為か、その映像がつまらなく、「VFXの会社が違うだけで、ここまで変わってしまうのか」という別の意味の驚きを味わいながら、画面を眺めていました。WETAデジタルはモーションキャプチャーを駆使した映像では一番ですが、CGはILMには及ばず、今回は「荷が重たかったんじゃないか」と思えます。
『アイアンマン』と言えば、諜報期間の“シールド”が必ず関わってきましたが、本作では全く登場せず、エージェントや長官の名前すら出てきません。今回がMCUとは無関係なら、それも納得できますが、繋がっているのに、それらが出てこないのは物足りず、アメリカ大統領(ウィリアム・サドラー)が危機的状況に陥り、シールドが出動しなければならないような事態なのに、誰も登場せず、トニーとローディ大佐(ドン・チードル)の二人だけが動くというのに、納得のいかないところがあります。シールドが動けない何かがあるのかもしれませんが、全く触れられないので、「こんな時に一体、あの組織は何をしているんだ?」と疑問を持つことも少なくありません。『アヴェンジャーズ』で命を落としたコールソン(クラーク・グレッグ)は『アイアンマン』で初登場し、その後に人気のキャラとなって出番も増え、本シリーズのヒロインのペッパー(グウィネス・パルトロウ)とは互いをファーストネームで呼び合い、コールソンの恋人についてもペッパーは知っているだけに、本作で話題にすらしていない事にも違和感がありました。
本作の良いところは大統領役にウィリアム・サドラー、副大統領役にミゲル・フェラーの懐かしの俳優を起用していて、観賞後にそれぞれの出演作の『ダイ・ハード2』や『ロボコップ』を観たいという気持ちにさせてくれたところで、それ以外には前述のブラック監督らしさという点しか納得できる点はありません。MCUのフェーズ2の始まりで、いきなり躓いたので、これ以降の作品への不安が一気に増すというマイナスな収穫があったのが非常に残念に思えた作品です。