「レストレス・ドリームス」ドリームハウス 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
レストレス・ドリームス
作品を広く紹介するならネタバレなしで書くのが一番だが、
本作をネタバレなしで紹介するのは相当に難しく、途中で断念……。
残念ながら“主人公の家族は既に殺されていた”という本作最大のドンデン返しは、
少し勘の良い方なら予告編を観ただけでも気付いてしまうだろう。
だが本作はむしろ、そのドンデン返しの後こそが本番だった。
琥珀色の照明は消え、壁の画の紅い花も消え、窓は叩き割られ、天井から冷たい水が滴り落ちる。
暖かな光に満ちた家。
暗く冷たく朽ちた家。
その落差の恐ろしさと悲哀。
死んだ筈の家族は主人公が真相に気付いた後も平然と現れ、
主人公が忘れようとした記憶=死に際の姿を再現してみせる。
例えそれが幻想でも幽霊でも、その哀しみと苦痛は本物だ。
主人公が事実を乗り越える姿、そして、それを支える人々の暖かさが胸を打つ。
隣家の娘の台詞には思わず涙を流してしまった。
「(あの子たちは)大きくなった?」
「小さいままだ」
「いなくなって寂しいと伝えて」
小さな娘達を弔う気持ち、そして主人公への深い同情と気遣いに溢れた言葉。
この映画は優しさに満ちている。
玄関に置かれた花の意味。
隣人が温かいシチューを持って来た理由。
冒頭で主人公を抱き締める老婆。
主人公の夢を応援する“元同僚”達。
(彼等が狂人だろうがその気持ちに偽りは無い)
そして最後、微笑みながら主人公を送り出す最愛の家族。
主人公が過去を乗り越えた事を示すラストに、暖かな気持ちになれた。
頭の何処かで最初から、主人公は気付いていたのではないか。
事実から逃げず、後悔しなければならないと。
家族を愛していたのなら、事実に立ち向かわねばならないと。
だって、思い出したくなければ、また忘れてしまえば良かったのだから。
最後に不満点を3点ほど。
事件の真相が取って付けたような印象だったのが残念。犯人がステレオタイプ過ぎるかな。
それと“過去を乗り越える為に書く”という描写にもっと重みを付けて欲しかった。
ラストシーンの説得力に関わる部分だと思うので。
そしてもうひとつ、これは個人の好みだが、
死んだ家族は幽霊ではなく、最後まで主人公の幻想であって欲しかった。
(幽霊じゃないという解釈も可能ではあるけどね)
あるいは、一体どちらなのか境目を限り無く曖昧にして欲しかった気がする。
以上!
哀しさと優しさに満ちた良作でした。
<2012/11/23鑑賞>