「ポスト・コロニアル映画」かぞくのくに よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
ポスト・コロニアル映画
かの国の理不尽さというよりも、我が国との関係が余りにも複雑であることが、映画で描かれている家族に苛酷な運命を与える。
こうした物語を通して多くの日本人が見たいと願うのものは、相手国政府の横暴さや閉鎖性だろう。そしてこの映画において、ある意味その欲求は満たされる。
だがしかし、この在日朝鮮人の一家に起きたある夏の出来事には、北朝鮮という国家だけが深く影を落としているだろうか。この一家の歴史からは、第二次世界大戦後に、宗主国と切り離された故国との間で揺れるアイデンティティを抱えた人々の苦悩が感じられる。国民というアイデンティティをどの国からも与えられることのない人々。そのために国境を超える自由を持っていない人々。これには我が国に歴史的な責任があることも事実である。
そしてまた、彼らを朝鮮半島からの移民の子孫としてとらえた場合、この映画は、ヨーロッパを中心として語られることの多い、ポスト・コロニアリズムを題材とした作品として観ることができる。主に西ヨーロッパの国々で、アフリカや中東からの移民が織りなすドラマと同じ位置を占めるのではないだろうか。
そういった意味で、兄ソンホの同級生にはもっと彼ら自身の来し方を語らせて欲しかった。日本に残った友人たちの物語に耳を傾けさせることで、ソンホの人間性や人生を重層的に表現できたと思う。それとも、そのようなことへの関心を示すことすら抑圧されている帰国者の姿を描きたかったのだろうか。にしては、監視役として同行した男が総連職員を怒鳴りつける姿には、彼の人間的な側面を見せられた気がする。
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