劇場公開日 1983年7月16日

「時は別れと共に過ぎていくのではない、想いと共にやって来る」時をかける少女(1983) 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5時は別れと共に過ぎていくのではない、想いと共にやって来る

2020年5月16日
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鑑賞方法:DVD/BD

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大林宣彦監督1983年の作品。
“尾道3部作”の第2作目。

幼馴染みの吾朗やクラスメートの深町と共に充実した高校生活を送る和子。
ある日の放課後、掃除当番の理科実験室で、誰かの気配が。
誰も居なかったが、ラベンダーのような香りを嗅ぎ、気を失ってしまう…。
その日を境に、奇妙な体験を。昨日起きた事が今日も起きている…?
あの放課後のラベンダーを嗅いだ時から、タイムリープ能力が…!

原作は筒井康隆の名作ジュブナイル小説。
本作は“尾道映画”としてではなく、青春ファンタジーとしても名高い。
TVドラマ化、この後2度の映画化、そして細田守監督のアニメ映画…。
幾度となく映像化され、その人気のほどが窺い知れる。

さて、この“時をかける大林版”、一本の映画として決して出来がいいとは言い難い。
では何故、今も見る者の心を掴み、魅了するのか。
奇跡の如く結晶した要因の賜物。

少女と2人の少年。織り成す三角関係、切なく淡い恋…。
『転校生』や後の細田アニメ版より恋愛色は濃く、邦画に於ける同ジャンルの原点とも言えよう。
ある人物の驚きの秘密を知った和子。
別れの時。時は過ぎていくのではない、やって来る。
そして時はやって来て、ラストシーン。
青春×純愛の真骨頂とも言える名シーン。
ちなみに、ラベンダーの花言葉は幾つかあるが、その中に、「私に答えて下さい」「献身的な愛」。

キャストの演技やSFXシーンについて苦言が多い。が、大林作品ファンなら周知、これは敢えて。
CGも無い時代、タイムリープをどう表現するか。確かに合成など拙いが、アニメーションなど挿入し、インパクトある画作りでタイムリープを表現。寧ろ、称賛モノである。
キャストの演技も新人の瑞々しさ、初々しさ、拙さを、その時だけの一瞬をフィルムに刻み残す。

細田アニメ版ほど巧みに練られた展開ではないが、開幕のスキー、ある老夫婦、幼き頃の傷痕、ラベンダーなど伏線も張られている。
お馴染み一部白黒映像、ほぼ全編奏でる松任谷正隆による音楽がノスタルジーを醸し出す。

そして、言うまでもない。本作は大林作品であると同時に、
原田知世の原田知世による原田知世の為の作品。
今で言う橋本環奈のような絶世の美少女ではないかもしれない。
が、見ていく内に、その拙い演技も含め、青春や想いや運命に翻弄されながらも一生懸命健気な姿が、堪らなく魅力的なのである。
エンディングの主題歌を歌うPVや全てひっくるめ、原田知世を見るアイドル映画。

批評家絶賛の作品だけが傑作名作の類いではない。
例え拙さあっても、後の作品に多大な影響与え、今も尚人々を魅了す。
それこそ本当の傑作名作。
それが、本作である。

近大