目を閉じてギラギラ : インタビュー
Vシネマの帝王・哀川翔が切り開いた新たな領域
NTTドコモの携帯専用放送局BeeTVの連続ドラマ「目を閉じてギラギラ 一発逆転!?借金人生」が、劇場版となって10月22日に公開された。小さな液晶画面が一気にスクリーンサイズとなる初の試みだが、ケータイドラマだからといって侮るなかれ。主演の哀川翔が、「Vシネマの全盛期を思い出した」と振り返るほど活気に満ちた撮影現場だったという。その熱が、そのまま映像となって結実していると確信。主題歌も担当し、決して揺るがない自信にあふれた話しぶりからは、新たな領域を切り開いた十分な手応えが伝わってきた。(取材・文/鈴木元、写真/堀弥生)
「テレビだろうが映画だろうが、芝居をやるほうにとっては変わらない。一生懸命やるよ。でも、現場行って驚いた。すっごいカメラが来てんだもん。それで夜中の3時4時までやっているし。なんか、Vシネマ全盛みたいな感じ。勢いがあるときのVシネマ。俺、思い出しちゃったもん」
哀川にとっては、よほど刺激的な撮影だったのだろう。その興奮がよみがえってくるようだ。BeeTVは存在を知っている程度だったが、ひとつの作品をつくることに対する気構えは一貫している。
役どころも興味深い。元やくざ。これだけなら今までの経験値が生かされるが、暴力が嫌いで足を洗い、貸金業を営むかたわら少年野球の監督をしている変わり種だ。説教だけで裏社会を生き抜いてきた過去があり、「ガンジー希崎」の異名をとる。
「切った張ったが嫌いだから辞めるって、そこがおかしいよね。それで若頭まで成り上がれるのは、どういう才覚しているんだって。でも、現実的にはありそうだし、そういう人間がとる行動には何か意味合いが出てくると思う。やっていて、現実味のあるフィクションだから、いろいろと感じ模索するところがあったね」
だが、特別な役づくりをしたわけではない。1話約10分、12話で構成された脚本を読み込み、その世界観に沿って撮影でなりきっていく、いつものスタイルだ。慣れ親しんだ自前のリーゼントで衣装の作業服を着れば、しっかりと希崎ができ上がってしまう。
「脚本を読んでふっと腹に落ちれば、何も考えなくてもけっこうその通りにいけるもんだよ。そこで我を出したりすると、二重人格になったりするから。俺だったらじゃなくて、こいつはこうなんだと思ってやれば1本柱ができていいキャラになるんだよ。作業服もむちゃくちゃ似合うんで、ビックリした」
希崎は、債務者の中に甲子園で活躍し天才投手といわれた八木沢がいることを知る。彼を説教し自身の仕事を手伝わせるが、さまざまなトラブルに巻き込まれていくというストーリー。その中で希崎が至近距離で八木沢にノックを受けるシーンがある。わずか数カットだが、それに備えて約2時間の特守を敢行した。
仕事も遊びも決して手を抜かないのが、哀川の魅力。野球は、キャンプ、釣りとともに子育ての必須アイテムとして唱えており、草野球に興じていたこともある。しばらくやっていなかったための準備だが、わずかなシーンでも半端なことはできなという意気込みの表れだ。
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