「名作」華麗なるギャツビー Raspberryさんの映画レビュー(感想・評価)
名作
高校生のときに読んだときは雰囲気はつかめたものの内容が腹に落ちなかった。村上春樹の翻訳版を読み直して、ようやく心から感動したのを覚えている。
夜通し繰り広げられる豪華なパーティー、豪邸、シルクのドレス、高級車、不倫、禁酒法下の酒場の解放感…。華やかな社交界をショーアップして見せるのはバズ・ラーマン監督の十八番。
映画の古典的で通俗的な狂騒感が、登場人物たちのそれぞれの下品さや、アメリカンドリームの幻想、人生=金の思考にピタリとマッチしていて面白かった。
トムとデイジー、デイジーとギャツビー、トムとマートル。全ての恋愛関係において実は全員がお金と地位のことしか考えていない。
マートルはトムに今の暮らしから引き上げてもらいたいと狙っている。
トムは貧しい出自のマートルと一緒になる気なんかない。上流階級のデイジーが必要。
デイジーはトムの不倫を知りつつ富裕層の生活を捨てられない。ギャツビーがお金持ちだからいっときは恋に落ちるが、死んでしまえば何食わぬ顔でもとの生活。
ギャツビーのデイジーへの一途な愛も「お金さえあれば何とかなる」と考えているあたり、裏返せば上流階級への憧れが執着の正体。
ではなぜギャツビーだけはグレートなのか。
それは、ギャツビーのキャラクターが、人間の様々な要素を〝全て〟ひっくるめているから。
貧しい農家、戦争、一流大学、マフィア稼業。上昇志向と努力と純情。自分で自分を鍛え上げながら、到達不可能な夢と愛を純粋に追い求めたギャツビーは、成金趣味でセンスは悪いけど笑顔が最高なのだ。シャイなのに前のめりなところや悲劇的な運命の哀愁も含めて〝全て〟を統合している。他の登場人物のキャラクターを全員束にしてもぜったいに敵わない。
色とりどりのシャツを一箇所に投げるシーンが象徴的だった。
ギャツビーが憑依したかのようなレオナルド・ディカプリオの多層的な魅力と、名曲「ヤングアンドビューティフル」のおかげで、私はしばらく余韻が抜けなかった。
最高の自分じゃなくても、存在そのものを愛されたいよね。私もギャツビー。