ものすごくうるさくて、ありえないほど近いのレビュー・感想・評価
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映画だからこそ、より自由に、もっと豊かに
あの ダルドリー監督ということで、期待して観に行きました。
海外ベストセラー原作の佳作に出会うと、映像による「翻訳」は、言語による「翻訳」以上に、オリジナルをより自由に・豊かに描きうるのだなあと感じます。例えば、同監督の「愛を読むひと」がそうでした。原作未読ですが「めぐり会う時間たち」も、時空を融通無碍に越え、豊かな物語を紡いでいたと思います。
本作は原作(の訳書)を読んでから臨みました。三層の物語が絡み合い、読むのは少々大変でした。個人的には(認識不足もあって)911よりドレスデンのパートが印象的深かったです。「ドレスデン運命の日」を観返したくなりました。
さて、映画。こちらは911にあくまで焦点を置き、語るべき物語をくっきりと打ち出していたと思います。その分、祖父の物語であるドレスデンともう一つの物語は、背景としてぐっと後退していました。やや盛り込みすぎの感がある原作から枝葉を適度に刈り取る等「自由な翻訳」が成功しています。けれども、同監督ならば、映画による「豊かな翻訳」も本作以上に十分可能だったかと思われ、少々惜しまれます。マックス・フォン・シドーが素晴らしいだけに、もっと観たかったという気持ちがひとしおでした。
それから。幕切れの「up」を「引く」と訳した字幕は、どうにも違和感があります。「up」以外の何ものでもなく、むしろ和訳は不要かと。物語の肝ですから。
ちなみに、予告でガンガン流れていたU2は登場しません。というか、U2の余地がない、まったく似合わない映画でした。(私はU2好きです。本作については、です。)U2を期待した人も少なくないと思いますし、予告は本編と乖離していたのでは、という思いが残りました。
【89.4】ものすごくうるさくて、ありえないほど近い 映画レビュー
作品の完成度
2011年公開の本作は、9.11同時多発テロで父を亡くした少年オスカーの喪失と再生の旅を描く、スティーブン・ダルドリー監督作品。原作はジョナサン・サフラン・フォアの同名小説。9.11という極めてセンシティブな題材を扱いながら、アスペルガー症候群の疑いがある少年オスカーの視点を通して、トラウマや家族の絆という普遍的なテーマに昇華させようとする試みは評価に値する。しかし、その描写が時に過剰に感傷的、あるいはハリウッド的な「感動ポルノ」と受け取られかねない危うさを孕んでおり、特にアメリカ国内の批評家からは賛否両論、低評価も少なくない。IMDbでは比較的高い評価を得ているものの、批評集積サイトRotten TomatoesやMetacriticでは厳しいスコアが示されている事実は、作品のアプローチに対する意見の割れを如実に示している。オスカーの探求が最終的に明らかにする真相は、感動的であると同時に、あまりにも出来過ぎた「ありえないほど近い」結末として、現実の悲劇の重みとのバランスを欠いているとの指摘も存在。テーマの重要性やダルドリー監督の手腕、豪華キャストの熱演にもかかわらず、題材のデリケートさゆえに、完全な傑作と断じるには難しい、複雑な完成度である。アカデミー賞では作品賞と助演男優賞(マックス・フォン・シドー)にノミネートされるという高い評価も得たが、これは9.11から10年という節目における、アメリカ社会の心情を反映したものと解釈される側面も大きい。
監督・演出・編集
スティーブン・ダルドリー監督は、『リトル・ダンサー』、『愛を読むひと』などで知られる繊細なドラマ演出に定評のある監督。本作でも、オスカーの複雑な内面や、彼が出会う人々の背景を丁寧に描き出す手腕は健在。特にオスカーの頭の中で繰り広げられる過剰な思考や、現実の「雑音」を視覚的、聴覚的に表現する演出は秀逸である。しかし、全体を通して感情を揺さぶろうとする力が強すぎるきらいがあり、それが一部で「センチメンタル」と批判される要因ともなった。エリック・ロスの脚本も相まって、物語のギミックに頼りすぎ、真の深みに到達しきれていないとの声も。編集はクレア・シンプソンが担当し、過去の映像や想像上のシーンを織り交ぜながら、オスカーの探求の道のりをリズミカルに構築。特に父の最期の電話の留守電を聞くシーンは、言葉の力と編集のテンポが相まって、胸を締め付けられる名場面となっている。
キャスティング・役者の演技
主演、助演ともに実力派俳優が揃った豪華なキャスティング。
トーマス・ホーン(オスカー・シェル 役)
本作が映画初出演となるトーマス・ホーンが、主人公オスカーを熱演。アスペルガー症候群の疑いがあり、頭の中に雑音を抱える、過敏で知的好奇心旺盛な9歳の少年という難役を見事に演じきった。常に落ち着きがなく、大人顔負けの語彙力を持つ一方、極度の不安や悲しみを抱える複雑なキャラクターの内面を、その大きな瞳と、どこか不器用な身のこなしで表現。彼の演技が物語の核となり、観客をオスカーの感情の渦へと引き込むことに成功している。特に、父を失った悲しみと向き合えず、鍵の謎解きにのめり込む姿は痛々しくも真に迫るものがあり、新人とは思えない存在感を示した。
トム・ハンクス(トーマス・シェル 役)
オスカーの父、トーマス・シェルを演じるのは、名優トム・ハンクス。物語の序盤で9.11の犠牲となるが、彼の残した謎の鍵がオスカーの旅のきっかけとなる。回想シーンでの登場が主だが、知的な遊びを通じてオスカーの心を育む、優しくもユニークな父親像を確立。オスカーとの掛け合いは温かく、短い出演時間ながらも、父子の深い愛情と絆を観客に印象づけた。彼の存在が、オスカーの行動原理と物語の感情的な重みを支える重要な要素となっている。
サンドラ・ブロック(リンダ・シェル 役)
オスカーの母、リンダ・シェルを演じるのはサンドラ・ブロック。夫を亡くした悲しみを抱えながら、精神的に不安定なオスカーを支える強い母親の役どころ。オスカーが自らの殻に閉じこもり、時に辛辣な言葉を向けても、決して彼を見放さず、陰から見守り続ける深い母性愛を抑制の効いた演技で表現。終盤、彼女の行動の真実が明らかになるシーンでの、言葉にできないほどの苦悩と愛情を秘めた表情は、物語の最大のサプライズと感動を牽引する。
マックス・フォン・シドー(間借り人 役)
オスカーの祖母の家に間借りする、言葉を持たない老いた間借り人を演じたのは、マックス・フォン・シドー。彼がオスカーの旅に同行し、無言ながらもその存在感と表情、そして「YES/NO」の書かれた掌で、少年に大きな影響を与える。老人の過去と、オスカーの喪失がオーバーラップする展開は、悲劇の普遍性を示唆。言葉を持たないという制約の中で、眼差しと仕草だけで全てを語る彼の演技は圧巻であり、第84回アカデミー賞の助演男優賞にノミネートされた。
ヴィオラ・デイヴィス(アビー・ブラック 役)
鍵の持ち主「ブラック」を追うオスカーが出会う女性、アビー・ブラックを演じたのはヴィオラ・デイヴィス。オスカーの突然の訪問に戸惑いつつも、彼と向き合う優しさと、内に秘めた自身の過去の傷を垣間見せる演技が光る。短い出演シーンながら、物語に深みと人間味を与え、オスカーの探求における重要な転機を作り出した。
脚本・ストーリー
エリック・ロスによる脚本は、ジョナサン・サフラン・フォアの原作を忠実に映画化。9.11で父を失った少年オスカーが、父の遺品から見つけた鍵に合う鍵穴を探してニューヨーク中を巡るという、ロードムービー的な構造を持つ。この鍵の謎解きというファンタジックな要素が、現実の悲劇からの逃避と、喪失と向き合うための手段として機能。しかし、鍵の持ち主が明らかになるクライマックスの展開は、賛否が分かれるポイント。母リンダの真実や、祖父母の複雑な過去など、複数の「秘密」が連鎖的に明かされる構成は巧みだが、ドラマチックに過ぎるとの批判も避けられない。
映像・美術衣装
撮影監督はクリス・メンゲス。オスカーの視覚世界を反映するように、ニューヨークの街並みを、時に冷たく、時に温かい光で捉えている。特にオスカーが街を歩き回るシーンは、広大な都市の中での少年の孤独と、探求の緊張感を高める。美術はK・K・バレットが担当し、オスカーの部屋や自宅の細部にまでこだわり、彼の世界観を表現。衣装デザインのアン・ロスは、オスカーの服装や、彼が出会う人々の個性的なスタイルを通じて、キャラクターの心理状態や背景をさりげなく示している。
音楽
音楽はアレクサンドル・デスプラが担当。彼のスコアは、オスカーの不安と知性、そして物語全体の悲哀を静かに、しかし深く表現している。感情の起伏に合わせて緻密に計算された楽曲は、時に緊迫感を、時に温かさを醸し出し、物語の繊細なトーンを損なうことなく支える。主題歌に関する言及は特にない。
主要な映画祭での受賞・ノミネート
第84回アカデミー賞において、作品賞と助演男優賞(マックス・フォン・シドー)にノミネート。
作品
監督 スティーブン・ダルドリー 125×0.715 89.4
編集
主演 トム・ハンクスA9×2
助演 サンドラ・ブロック A9×2
脚本・ストーリー 原作
ジョナサン・サフラン・フォア
脚本
エリック・ロス A9×7
撮影・映像 クリス・メンゲス A9
美術・衣装 美術
K・K・バレット
衣装
アン・ロス B8
音楽 アレクサンドル・デプラ A9
ものすごくうるさくてありえないほど近いって「電話」なのか
尋ね先が多すぎたのかな・・・
父の遺した鍵の謎を探す、少年の冒険と成長を描く物語。
トム・ハンクスとサンドラ・ブロックが共演する人間ドラマ。ただ、主人公は少年役のトーマス・ホーン。特に、トム・ハンクスは殆ど出番がなく、トップクレジットでの掲載はどうかと思ってしまいます。
映画.Comでは「ALLTIME BEST」に選ばれている作品ですが、個人的にはそれ程でも・・・と言った感想です。
物語は、自閉症気味の少年の成長譚。遺品から出てきた「鍵」と「BLACK」の文字から、「鍵」に合う鍵穴を探してニューヨーク中のBLACK氏を訪ね歩きます。
多くの人との交わることは、この少年にとって大きな成長の糧になったのでしょう。ただ、その描写が限定的なのは残念。
尋ね先が、何かしら父親との接点がある場所なら、色々なエピソードが描けたのでしょうけど、「BLACK」だけでは描きようがありませんでした。
それでもクライマックスの展開は秀逸。少年のトラウマ、冒険の成果、成長・・・そして母子の情愛がしっかりと描かれていて、素直に感動しました。
エピローグが少々長すぎる気もしましたが、中盤迄の低評価を挽回するラストだったと思います。
私的評価は普通にしました。
自分の気持ちの清算
数千万円のデジタルカメラ
で、全編撮影されている。このカメラは人物の顔のアップがとても得意である。カメラオタクの私が見ても フィルムで撮影したものとほぼ 区別がつかない 。とても美しいと思った 。ただ どういうわけか デジタルカメラはボケ味がシンプル というか、ボケの部分の味わいが出ない。カメラマンが それに気がついているので 全体に顔のクロースアップが多すぎて単調な演出になってしまってる。画面に人物の全身が映るショットは常に非常に短く、美しい風景のカットはほとんどない。ちなみにこのカメラマンは4回もアカデミー撮影賞にノミネートされて2回受賞している。この作品と 「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」
を比べてみるとデジタルとフィルムの味わいの違いがよくわかると思う。この作品だけ見ていると悪くない映像だと思っても、3度目の埋葬の方を見ると圧倒されるんじゃないかな。 もし されないとしたら、あなたはもっと素晴らしい モニターかプロジェクターを買うべきだ。もっとも、すでにフィルム用カメラは製造されてないけどね。悲しいことに。
ストーリーはそれほど素晴らしいものではないと思った。中盤と 終盤とに3つのエピソードがあるんだけど それらはあまりうまく溶けあっておらず 一つ一つのエピソードの完成度も低いと思った。この映画がうまくいったのは 少年の演技力とカメラマンのカバー力によるものだと思った。あと 音楽の使い方も上手かったね
9.11 がネタになっているからちょっと書くけど・・ あそこに 突入している飛行機が 皆さんにはリアルに見えるのかな? 見えるならもっと素晴らしい モニターかプロジェクターを買うべきだよ。
とても感動しました
タイトルなし
映画って難しい。間違いなく秀作なんですが、素晴らしいと感じたかと言うと…。でも駄作ではないです、決して。何とも言いようの難しい作品。
まず主人公の男の子に乗り切れなかった。父親を理不尽に亡くしてああなるのもとってもよくわかるし文句のつけようもないんだけど、彼に乗り切れなかった。これは単純に自分の精神年齢が子供で赦しがないからかも。ただ加えて関係するのかもしれないのが9.11。この映画の背景でしかないので「それを言っちゃあお終いだろ」と自分でも思うんだけど、やっぱり"お互い様やろ。アメリカもそれ以上殺してるだろ。被害者ぶるなよ"と無意識に感じてしまう。他の映画では考えもしないのになぜだろう。
また、祖父とのエピソードや鍵の顛末その他、踏み込みきれていない、散漫で取り留めのない印象で終わってしまったと感じた。これも他の映画でもっとテーマから離れた着地の仕方をしている作品はゴマンとあるのに、この映画だけ気になってしまったのがなぜかわからない。でも例えばクーリンチェ少年殺人事件を自分は映画史指折りの傑作だと思うが、あれは少年少女の喧嘩や恋模様の裏に台湾の歴史を含ませている所に強烈な迫力を感じる。そう思うと、この作品の中のアメリカの歴史に血生臭さと被害者意識だけを感じてしまい、心の何処かで「飛行機は何の理由もなくツインタワーに突っ込まんよ」と思ってしまう。歴史を背負いきれてないっていうのか。エドワード・ヤンってやっぱり凄いんだな、とは思った。彼なら何とかしている気がするから。
結局よくわからなくなった。映画って難しい。
なんか小難しくないか
映画を見る目を
苦しくて涙…して良いのか?
少年の行動力と、それを支える大人たち
感動的な内容にも関わらず、何故か感動に繋がらず…
全く知らない作品のTV放映だったが、何せ、
「リトル・ダンサー」
「めぐりあう時間たち」
「愛を読むひと」
で魅了させて頂いた同じ監督作品と知って
初鑑賞した。
アスペルガー症候群の子供が、
9.11で父を失う中でもたらし、彼自身と、
そして接した人々の関係復活劇的様相で、
本来はかなり感動的な内容の作品だ。
しかし、何故か己の感動に結びつかない。
様々なことが頭をよぎる。
父親が9.11で亡くならず、
また彼が花瓶を手に入れてなかったら、
更にその花瓶を落とさなかったら、
との3エピソードの一つでも無かったら、
その後の物語の成立しない作品だが?
息子がアスペルガー症候群ではないとしても
話として成り立たなかったろうか?
それに絡み、よもや本質的な意味ではなく、
展開をドラマチックにするべく方法論的に
そのような病状の設定にした背景は
ないのか?
父親が特に息子と接していたからだと
しても、また、
母親と本来あったように見える溝は、
後でそうではないと分かるのだが、
母親に別の男性がいたと
息子は思っていたからなのか?
祖父の2度に渡る祖母との別離は、
もしかして、
声を失ったことにも起因していて、
父親同様に戦争の悲劇として
語られているのかも知れないが、
説明はなく想像するばかりだったが?
等々、疑問に感じる展開構成が
感動を阻害したのか、
その理由も不明のまま鑑賞を終えた。
そんな中、何とか監督の製作意図として
感じてきたのが、
ラストシーン直前までは、
アスペルガー症候群の少年が
父親の残した謎のキーを巡っての
他人との交流がもたらす症状克服ストーリー
のように思えたが、
最後の最後には、祖父・祖母や
彼が最初に調べに行った黒人夫婦の描写を
通して、
また、少年と母親との関係も含め、
家族の絆の復活的ストーリーではあった。
しかし、上記の理由も含め、
没入を妨げる何かがあり、
ダルドリー監督の前記の映画に比べると、
今一つに感じてしまった。
尚、私の一番好きな
スティーブン・ダルドリー監督作品は
「リトル・ダンサー」です。
繰り返してはならぬこと
父との繋がりを求め、ひたすらに突き進む少年。母を拒絶する言葉、本心でないことは母も本人も分かっているが、一瞬でも思って口にしてしまった事実はずっと残る。
終盤までは、少年の執拗な鍵への執着を、彼の特性によるものと思っていた。
しかし、あの日少年に何があったのかが分かると、自身を維持するための必死の行動だったのだと分かる。何故母を拒絶してしまったのかも。回想される内容、少年の表情には心が締め付けられる。
父の教え、母の強さ、祖母や同居人の優しさに支えられながら、数年をかけて多くのブラックさんと交流した少年。母への一言が、彼が大人になったのだと思いつつも、余りにベタなセリフでほっとした。
物語上、非常に大きな役割を果たした祖母の同居人。彼を演じたマックス・フォン・シドーの演技はとても印象的。偶然にも、少し前にフラッシュゴードンを観たばかりであった。
22回目の9.11にBSで鑑賞
全て見守っていた母の愛
夫婦の愛、親子の愛が輝く作品
沢山の愛に溢れていた
パパとの“8分間の距離”を永遠に延ばす旅。
静かに進む物語だけど、静かな音楽と相まって、気がつくとすごい夢中になってました。
何というか、ゆっくりなのにすごい引き込まれ方でしたね。
今作がデビューという子役トーマスホーンがまた素敵。
無垢で、とても傷つきやすい感じがとても滲み出てました。
また、タンバリンやガスマスクを持ち走るその姿は、どこかエリオットを思わせるから不思議。
この子役の輝かせ方も、ダルドリーの魅力なんでしょうね。
そんな彼の父親にトムハンクス、母親はサンドラブロックというものすごい安心感。
亡き父を感じていたい為、途方もない謎解きを繰り返し、やっと辿り着いた先でまた全て無くしてしまう。
でも実は、沢山の愛に溢れていた。
失意から踏み出す勇気、家族の愛、人々の愛。
嬉しい涙が溢れる、そんな素晴らしい作品でした。
全164件中、1~20件目を表示










