劇場公開日 2012年1月21日

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「駄作ではないけれど、傑作だった『パンズ・ラビリンス』と比べてしまうと物足りなさを感じてしまう。」ダーク・フェアリー 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0駄作ではないけれど、傑作だった『パンズ・ラビリンス』と比べてしまうと物足りなさを感じてしまう。

2012年1月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

★★★☆☆
 昨日の試写会は試写状を紛失して、同行者の方には大変ご迷惑をおかけしました。小地蔵だけ試写会仲間に助けられて参加することができました。

 古い歴史のありそうなお屋敷を舞台に、こころにトラウマを持った主人公の少女が謎の声の持ち主とこころを通わせる。しかし、その声の持ち主はちょっと怖いダーク・フェアリーだったという点では、『パンズ・ラビリンス』を踏襲しています。しかし、そのぶん既視感たっぷりで新鮮見を感じませんでした。
 日本人にとって子供の歯や骨を好物とする「トゥースフェアリー」という存在になじみがない分、符丁として怖さを連想できないという民俗上の違いも大きいと思います。でも地下室の魔物がいたというくらいの話は、ホラーの定番のようなもの。ギレルモが脚本と製作を務めているのなら、もっと彼らしいファンタジーや人間ドラマを打ち出して欲しかったです。特に主人公のサリーが抱えた両親の離婚のショックからくるトラウマがあまり活きていないように思えます。もちろん地下室の魔物の存在を作に気づいたサリーのことを離婚のトラウマのせいにして全く信じようとしない父親ハーストとの葛藤は描かれています。そのためサリーは家出までしようとするのです。ただそうしたサリーの孤独感も『パンズ・ラビリンス』ほどこころが切なく感じさせるところまでは行きませんでした。
 ギレルモ作品のキモにあたるのは、主人公の少女の薄幸さと深い孤独感にあります。そこをきっちり描くことで、主人公がこころを満たすために、たとえダーク・フェアリーであっても「友達」として受け入れてしまうというのが基本線。だから主人公の少女のエモーショナルな表現とそれがどう変化していくのかが大事なところなのです。

 ただ駄作というのではありません。どうしても傑作だった『パンズ・ラビリンス』と比べてしまうと物足りなさを感じてしまうのです。本作の売りが、いま人気急上昇の子役イリー・マディソンの絶叫度というのは、ちょっとアピールポイントが違っているのではないかという気がします。確かに業界最大音量との評判のイリー・マディソンの『キャー』と叫ぶ音量は凄まじかったですけれど(汗)。

 それでも幻想的で絵画的な映像美は見どころでして、日本から取り寄せた鯉がおよぐ庭園の美しさや、豪華なブラックウッド邸内など恐怖のお伽話の世界を幻想的にオブラートしていたのです。また正体不明の何かが闇に蠢く前半の描写は、さすがに「BATMAN」の作画を担当してきたトロイ・ニクシー監督だけのことがありました。暗闇を使っての恐怖感を盛り上げてくところは巧みです。

 残酷なシーンも極めて少なめなので、ホラーは苦手だけどちょっぴし怖い映画も覗いてみたいという方にはピッタリでしょう。

●Introduction
 田舎の屋敷に住み着く魔物の恐怖を描いた、知る人ぞ知る傑作TV映画「地下室の魔物」(73)をリメイクしたサスペンス・スリラー。欧米に伝わる邪悪な歯の妖精「トゥースフェアリー」をモチーフに、両親の離婚により郊外の古めかしい屋敷に引っ越してきた心を閉ざした少女とその家族が体験する未知の恐怖を描いている。この企画を長年温めてきたという、『パンズ・ラビリンス』で知られる鬼才ギレルモ・デル・トロが脚本と製作を務め、「BATMAN」の作画なども手掛けるコミックアーティストのトロイ・ニクシーが本作で監督デビューを果たした。その幻想的で絵画的な映像美は見どころで、衝撃と戦慄に満ちたこの“身も凍るおとぎ話”の効果的な味付けになっている。

TVムービー『地下室の魔物』のリメイク。欧米に伝わる子供の歯を食べる邪悪な妖精“トゥースフェアリー”をモチーフにしたショッキング・スリラー。製作・脚本は、「パンズ・ラビリンス」のギレルモ・デル・トロ。監督は、イラストレーターのトロイ・ニクシー。出演は、「バットマン ビギンズ」のケイティ・ホームズ。

 建築家アレックス・ハースト(ガイ・ピアース)はロードアイランド州プロヴィデンスの郊外で、家主の失踪によって100年近く放置されていた屋敷ブラックウッド邸に、助手で恋人でもあるインテリア・デザイナーのキム(ケイティ・ホームズ)と住み込み、修復に携わっている。彼には、ロスで暮らす別れた妻と小学生低学年の娘サリー(ベイリー・マディソン)がいた。アレックスとキムは、両親の離婚で心を閉ざしたサリーを屋敷に呼び、一緒に暮らし始める。屋敷に来たサリーは、通風孔の奥から何者かが話しかけてくるのを感じる。翌日、サリーは地下室を見つけ、アレックスに伝える。祖父の時代から屋敷を管理してきた使用人ハリスの制止を振り切り、アレックスは封印されていた地下室に入っていく。そこは、著名な動物画家だった家主ブラックウッドのアトリエだった。サリーは地下室で、厳重に封印された小さな扉を見つける。夜な夜な話しかけてくる声がそこから聞こえるのに気づいたサリーは、大人の目を盗んでその扉を開ける。その夜、扉の奥から這い出した小さな魔物たちは悪戯を始める。魔物たちは、子供をさらいその歯を食べる“トゥースフェアリー”という邪悪な妖精だった。ハリスは地下室の小さな扉が開いているのに気づき閉めようとするが、魔物たちに襲われ瀕死の重傷を負う。サリーは魔物たちの仕業だと2人に告げるが、彼らは信じなかった。しかし、ハリスの見舞いに行ったキムは、サリーを屋敷から逃がすよう言われ、公立図書館で屋敷に関する公式記録を見るよう助言される。記録には、約100年前トゥースフェアリーが原因でブラックウッドと8歳の息子が行方不明になったことが記されていた。キムはただちに屋敷から逃げるべきだと主張するが、その夜には屋敷修復のスポンサーを集めたパーティーが予定されていた。しかしパーティーの最中、サリーが魔物たちに襲われる。アレックスも脱出を決意するが、群れをなした魔物たちは彼らに襲いかかる。
[ 2012年1月21日公開 ]

流山の小地蔵