劇場公開日 2012年3月24日

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「曇天のように心を覆う、ぼんやりとした不安。」テイク・シェルター 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0曇天のように心を覆う、ぼんやりとした不安。

2012年5月21日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

鑑賞前の方々にひとつ注意。
「『アバター』『スカイライン』の製作陣が放つ……」などと宣伝されている本作だが、
くれぐれも派手なCGや大掛かりな展開は期待しないでくださいな。
CGを担当したのは確かに上記作品等を手掛けたhydraulx社、
製作者も『スカイライン』を監督したストラウス兄弟だが、
CGはストーリーを語る上での最低限の使用に抑えられている。
派手な画に頼らず、淡々と、丁寧に緊張感を煽ってゆくタイプのスリラーだ。

個人的には『AVP2』『スカイライン』を監督した
ストラウス兄弟への信頼は限り無くゼロに近いので、
「これは彼ら兄弟の監督作ではない」という点をまず強調しておきたい。
(↑面倒臭いこと言うヤツでスミマセン)

監督はジェフ・ニコルズという方。長編映画はまだ2作目だそうだが、
「2作目にしてこの完成度かよ!」って感じだ。
色んな映画祭で絶賛されたというのも頷ける。

映画のあらすじは——
「巨大な嵐と共に不吉な“何か”がやって来る」という悪夢に毎晩苛まれる主人公。
妻と幼い娘にその悪夢の事を言い出せないまま、
彼は私財を投げ売って避難用のシェルター作りに没頭する……。

予知夢か、ただの妄執か、自らの精神疾患を疑いながらも
シェルターを作り続ける主演マイケル・シャノンの演技が見事。
妄執でも現実でも本人からすれば恐怖である事に違いは無い訳で、
脂汗を浮かべた固い表情からはその恐怖と切迫した気持ちとがリアルに伝わってくる。
悪夢に苦しみながらも、善き家庭人であろうと努める姿にも同情を禁じ得ない。

夫の奇行に戸惑いつつ、苦しむ彼を必死に支えようとする
妻役ジェシカ・チャスティンも健気で美しい。
映画の終盤、シェルター内で彼女が夫に諭す言葉は、
思いやりと愛情に満ちていて心に迫る。

そして、映画全編を覆う、ぼんやりとした不安。
ぽつぽつ降り始めた雨粒の立てる波紋を連想させる音楽が不穏な空気を醸し出し、
網膜に焼き付くような白みの強い映像・動きを抑えたカメラが緊張感を煽る。

胸の奥底に薄い灰色の雲がかかり、徐々に徐々にその厚みを増してゆく……
鑑賞中、そんな息苦しさを覚えていた。
鑑賞後もそのぼんやり不安な気持ちは残る。
僕らの平穏な日常が、恐ろしく脆くて儚いものに変えられてしまった……そんな不安が。

終末SFとも心理スリラーとも名状し難い、複雑な余韻を残す秀作。

<2012/5/19鑑賞>

浮遊きびなご