「激しい内戦を背景に、祖母から孫娘に、そしてその子供達に引き継がれる熱い骨太の家族史的物語」灼熱の魂 Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
激しい内戦を背景に、祖母から孫娘に、そしてその子供達に引き継がれる熱い骨太の家族史的物語
ドゥニ・ビルヌーブ 監督による2010年製作(131分、PG12)のカナダ・フランス合作映画
原題:Incendies、配給:アルバトロス・フィルム
デジタルリマスターー版劇場公開日:2022年8月12日
その他の公開日:2011年12月17日(日本初公開)
明確には示されてなかった気もするが内戦の最中(キリスト教徒とイスラム教徒間の長期(1975〜1990)に渡る争い)のレバノンが舞台。
カナダ在住の双子男女の主人公達(メリッサ・デゾルモー=プーラン、マキシム・ゴーデット)は、そこで生まれ育った母親の足跡と、遺書によって存在が明かされて、指示もされ自分達の父親と兄を探す旅に出る。
母親ルブナ・アザバルは、キリスト教徒であったがイスラム教徒の夫と恋愛する。しかし夫は兄達に殺され、その後生まれた子供は、祖母により踵に印を付けられて孤児施設に預けることとなり、自分は高等教育を受けさせられる。しかし、内戦が勃発し大学は閉鎖してしまう。
内戦の描写が凄まじい。キリスト教徒達はイスラム教徒達が乗ったバスを襲撃し、女子供も区別なくバスごと油をかけて火をつけ皆殺しにする、戦禍の中で子供を探している最中に巻き込まれた母親ルブナは、自分はキリスト教徒だっと言ってかろうじて助かるが、助けようとして抱えた幼子も撃ち殺されてしまう。カナダ・フランス映画でありながら、キリスト教徒による異教徒虐殺は、あまり見たことがなく、かなり強い衝撃を受けた。
その事件後、ルブナは希望してイスラム側のテロリストとなり、キリスト教側指導者の家に子供の家庭教師として潜入し、その指導者を見事に射殺。脱出準備も無く、当然敵側牢獄にぶち込まれが、そこで歌うことで何とか正気を保ち「歌う女」と呼ばれる様になる。その牢獄で出会うのが、拷問人の若者。
踵に印が有る子供や若者の映像がふいに挿入され、ルブナの最初の子供の軌跡が説明無しでさりげなく示されるのが、映画的で上手い。
双子の主人公達は、母親がその拷問人により孕まされ自分たちが生まれたことを知る。そのショックを和らげるためか、プールで爆泳し、胎児の時の様に水中で抱擁し合う映像が、やりすぎとは思ったが、かなり強く印象に残った。
兄の行方を追っていた主人公の1人マキシムが、1+1=1となってしまったとメリッサに告げる。その意味を知り嗚咽する彼女。劇的な展開で、こちらも一緒に大きな衝撃を受けた。このことを移住先のカナダのプールサイドで知った母親ルブナは、そのショックのせいか亡くなってしまった訳だが、最後の間際には救われた境地になっていた様。
即ち、母は自分の子供たち2人が、レイブではなく、愛する人間との間で誕生したと考えられることに、救いを覚えた。そして、そのことを、子供たちにも伝えたいと思い、その強い気持ちを遺書に託した。そして、その後に長男に渡す手紙を残した。
1人の母なる女性の強い意志を持った生き様、それが世代を超えて子供達にも影響を与えていくこと。そして、その骨太の家族史的物語を戦火を背景に語って行く本映画に、強烈なエネルギーと凄みを感じた。
監督ドゥニ・ビルヌーブ、製作リュック・デリー キム・マクロー、原作ワジディ・ムアワッド、脚本ドゥニ・ビルヌーブ、撮影アンドレ・チュルパン、美術アンドレ=リン・ボパルラン、衣装ソフィー・ルフェーブル、編集モニック・ダルトンヌ、音楽グレゴワール・エッツェル、挿入歌レディオヘッド
出演
ルブナ・アザバルナワル・マルワン、メリッサ・デゾルモー=プーランジャンヌ・マルワン、マキシム・ゴーデットシモン・マルワン、レミー・ジラール公証人ルベル。