夢売るふたり : インタビュー
松たか子&西川美和監督、「夢売るふたり」で構築した共犯関係
「一切の後悔がない作品ができ上がりました」。西川美和監督が「夢売るふたり」に相当な手応えを感じていることを裏付ける言葉だ。これまで避けていた女性、男女の関係というテーマに夫婦、結婚詐欺というオリジナルのスパイスを効かせることで活路を見いだし、丹念に練り上げた異色のラブストーリー。その軸となる妻・里子を演じた松たか子は、脚本を一読し「ついていけばいいんだ」と全幅の信頼を置いた。西川監督も里子が愛すべきキャラクターになったと断言。2人は撮影を通して素敵な“共犯関係”を築いたようだ。(取材・文/鈴木元、写真/堀弥生)
「蛇イチゴ」「ゆれる」「ディア・ドクター」と、西川監督は男性心理をえぐり出すことに重きを置いてきた節がある。なぜここまで男の生理がすくい取れるのか、時に空恐ろしくなることもあった。ならば同性である女性を描くのは造作もないはず。しかし、「ずっと撮りたくないと思っていました」と全否定の答えが返ってきた。
西川「撮りたくなくて避けてきたから、撮ってみようと思いました。女をやらねばという思いと、男と女というのもちょっと苦手意識があったんですけれど、夫婦の関係をやってみたいという思いがどこかにあったんです。そのふたつを結びつけるには、どういう仕掛けが面白いかなあと考えました」
当初、思い描いていたのは現代版の「夫婦善哉」。原作は織田作之助の小説で、映画化もされた名作純愛ドラマだ。それだけでも見たいと思わせるが、さらにひと手間を加えることで構想が固まっていったという。それが、結婚詐欺だ。
西川「小さなカップルが手に手をとってけなげに進んでいく話をやりたいけれども、『夫婦善哉』のようないい作品が既にあるから、何か新しいアプローチがないかと思い、2人の進む方向が応援したくなるようであればいいけれど、そっちじゃダメだという方向に信じて進んでいく話は面白そうだと。だから、夫婦が共謀して犯罪をする話になったんです。犯罪ものは好きですし、それが結婚詐欺であれば私がやらなくてはと思っていた女性たちも被害者として出せるので、苦手意識を持っていたものが一網打尽に描けるな、と」
小料理店を営む貫也と里子の夫婦は、5周年を迎えたその日に火事で店を失ってしまう。自分たちの店を持つという夢を諦めきれない2人は、資金繰りのため結婚詐欺を画策。里子が標的を見つけ、貫也が実行に移すという手口で結婚願望の強いOL、男運の悪い風俗嬢らを次々にだましていく。だが順調に進んでいた計画は徐々にほころびを見せ始め、夫婦の間にも微妙なずれが生じていく。脚本を読んだ松は、言葉にできない面白さを覚えたという。
松「原作が映画になる場合に、どうなるかという楽しみはありますけれど、オリジナルはそれを飛び越えて脚本を書いた人(西川監督)の力が直に伝わってくるので、すごくパワーを感じたし不思議だけれど面白い話だと思いましたね。こうだから面白い、ここが面白いとは言えない部分がいっぱいあるから面白いなという感じ。でも、監督には見えているのだろうから、ついていけばいいんだと思いました」
その松が、初めて西川作品にふれたのは「ゆれる」。2006年、同作に出演している香川照之とフジテレビのドラマ「役者魂!」で共演した際に勧められ、上映中だったこともあって撮影の合間に見に行った。
松「潔いというか見る側にこびていない。突き放されたようなラストシーンも含め、こういう描き方をする人がいるんだ。しかも女性で、と思ってすごく面白かった。出ている俳優さんも皆素敵でしたし、そういう印象が強かったですね」
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