劇場公開日 2012年10月13日

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ミステリーズ 運命のリスボン : インタビュー

2012年10月12日更新
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メルビル・プポー、名匠ラウル・ルイス監督の思い出を語る

昨年70歳でこの世を去ったチリ出身の名匠ラウル・ルイス監督。亡命後フランスを拠点に活躍し、日本でも「見出された時 『失われた時を求めて』より」「クリムト」などのクラシカルで幻想的な映像で知られている。ルイス監督に見出され9歳から映画に出演し、その後ルイス作品の常連となった仏俳優メルビル・プポーが来日し、ルイス監督との思い出を語った。(取材・文・写真/編集部)

上映時間およそ4時間半という大作となった「ミステリーズ 運命のリスボン」は、19世紀のポルトガルの古典小説が原作。孤児の少年と彼の出生の秘密を知る神父が物語の中心となり、貴族、修道士、侯爵夫人ら登場人物のミステリアスな人生が時と場所を超えて入れ子の様に展開し、数々の謎と幻想的な映像で観客を惑わせながら、結末へ導いていく。フランスでは1年間というロングランを記録、ルイ・デリュック賞受賞を始め、各国で称賛された。

今作ではほんの数シーン出演するのみだが、プポーは9歳のデビュー作「海賊の町」から12本の作品に出演しており、ルイス監督を最もよく知る俳優の一人だ。“迷宮”とも形容されるルイス作品の魅力をこう分析する。

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「すでに起こっているストーリーを再訪するという輪廻的な考え方がラウルの中にあります。ですから、ラウルの作品の中では1人が何役も演じることが、多々あります。時には観客が困惑してしまうこともありますが、それもあえてやってのけるのです。目覚めていながら夢を見ているような感覚を味わわせるというのが監督の目的で、迷宮の中に誘い込んでおきながら、つないでいた手を離すようなところがあるのです。子どもの目で大人の世界を覗いているような、そういった体験を観客にしてほしいのではないでしょうか」

ルイス監督は独特のスタイルで撮影を進めたという。「脚本がまったくないところから撮影を開始した作品もありますし、当日朝もらうこともありました。そのせいでクレイジーになってしまった俳優もいます。俳優はいつも監督に安心させてもらいたいのですが、不安定にすることがラウルの狙いでした。でも優しい人なのでいつも解決方法を見つけ出してくれるのです。スタッフもキャストもお金のために集まっているのではなく、何か一つの遊びをラウルと一緒にやりたい、ラウルの演出にみんなが驚きたいと思って集まっているのです」と振り返る。

主役から端役まで、ルイス監督からのオファーを受けてノンと言ったことはないという。プポーにとってルイス監督はどんな存在だったのだろうか。「僕は彼の作品のマスコット的な意味合いで起用されているのだと思っています。彼との経験は本当に独特で、僕にとっての師匠のような、スターウォーズのヨーダのような存在です(笑)。その教えを何とか自分のものにしようとしているのです。ヨーダよりもラウルの方がユーモアがありますけどね」。

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ルイス監督作以外にも、ジャック・ドワイヨンエリック・ロメールアルノー・デプレシャンフランソワ・オゾンら、フランス映画界を代表する監督作に出演、ゾエ・カサベテス監督の「ブロークン・イングリッシュ」など英語劇にも挑戦し、着実にキャリアを重ねている。幼少期から映画にどっぷりつかった環境で育ったプポーだが、次の人生があったらまた俳優という職業を選ぶか聞いてみた。「僕はこの人生で素晴らしい監督と会うことができましたが、役者としてのリスクはどういうものかわかっています。燃え尽きるように一生懸命に働いたと思ったら、何カ月も仕事がなかったり、人生としては不安定です。それを頭の中に入れて生きていました。大ヒット作でブレイクしたという経験がなく、控え目な感じで映画人生を歩んでいるのが良いのでしょう」。

穏やかに、そして丁寧にルイス監督と過ごした日々を回想したプポー。取り囲む取材陣に、持参した旧式のニコンを向けるなどアーティストらしい一面もみせた。歳を重ねても失われない好奇心と謙虚な姿勢が、多くの巨匠に愛される理由なのだとわかった。

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