「美への純粋な愛」ベニスに死す nao-eigaさんの映画レビュー(感想・評価)
美への純粋な愛
深くて美しい映画だった。
美しいものを見た時、人は性別関係なく惹かれてしまうことがある。
綺麗な肌を見たら触ってみたいと思う。
いい匂いのする人がいたら近くにいたいと思う。
誰しも多かれ少なかれ、このような感情はあるはずだ。
それまでの美への価値観を覆してしまうほどの衝撃を受けた作曲家グスタフは、
まるで初恋をした乙女のような行動をとるほど
タジオの虜になってしまう。
この映画は単に同性愛を描いたものではない。
グスタフにとって、タジオが男であるか女であるかは関係ないだろう。
タジオがたまたま男でありながら美しすぎただけなのだ。
一人の老いた芸術家が、
若くて美しい天然の美を誇る少年に出会う。
今までの芸術に対する考えを覆され、
届かない美の象徴である少年に翻弄され苦悩し、
果ては醜い姿で死に至る。
天然の美へのどうしようもない憧れ・・・。
人間の普遍的な執着を描いた
ある種残酷な作品に仕上がっている。
タジオが女ではなく男であるとしたところに、
「美しいものへの純粋な愛」を際立たせ、
どこかミステリアスな雰囲気をこの映画にもたらしている。
しかし、グスタフのあまりに腰抜けな動作には見る度笑ってしまう。
手も足も出せず、ただただ見つめるだけ、そっと近づくだけ。
妄想までしてしまう始末。
またベニスへ戻ってくる時のどこか嬉しそうな表情。
なんて滑稽なんだろう。
グスタフは何を思い死んでいったのか。
彼の人生とは何だったのか。
タジオに出会わなければグスタフはあそこで死ぬことはなかったかもしれない。
醜態をさらすこともなかったのかもしれない。
しかし、翻弄されながらも
追い求めていた美を眺めながら死んでいった彼は
ある意味幸福だったのかもしれない・・・。
最近観たどの映画よりも叙情的で不思議な魔力を持つ作品だった。
これから何度でも観るつもりだ。
タジオの美しさについて。
まるで地上に降り立った天使。
西洋画から抜け出してきたような美少年。
とにかく、俗っぽさ、男性らしさを一切感じさせない。
白い陶器のような透き通った肌、
薄紅の頬と唇、
耽美さを増す髪型のウェーブ、
ヒョロッとした華奢な体つき、
高い腰の位置。
ビョルンは性別を超えた美しさをこの作品では誇っている。
意外と低いが何気に声もいい。
ビョルンの素材がよかったのは勿論言うまでもないが、
ここまでタジオを永遠の美少年に仕立てあげたのは
演出の力も大きいだろう。
彼が纏う衣装はどれも似合っていて美しさを際立たせるものだった。
ふとしたときのポーズも、まるでわざとらしいくらいに計算されている
(きっと、腕や足の位置を細かく指定していたのだろう)。
グスタフの視線に気付いてからは挑発的で小悪魔な感じの態度を見せるが、
これもまた彼の魅力の一つと言える。
黒目が小さく切れ長でSっぽい目つき・・・。
グスタフが思わず愛しているとつぶやいてしまうのにも納得だ。
ただでさえ美しさにノックダウンされているのに、
更に魅惑的な顔を見せられてしまっては、
「これ以上翻弄しないでくれ」という気持ちが起こってしまう。
タジオの母親も、タジオに負けず劣らずの美しさだった。
衣装も派手で優美でため息が出るほどだ。
二人が揃えばまさに負けなし。
タジオに執拗にイチャつく友人が気になった。
「まさかこの友人もタジオに惹かれている?」と思わせるほどだった。
この演出は監督が狙ってのことだったのだろうか・・・?