劇場公開日 2012年3月17日

種まく旅人 みのりの茶 : インタビュー

2012年3月13日更新
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田中麗奈、自然の中で感じた本当に豊かな生き方

大分県臼杵市を舞台に、農業に生きる人々の生活を描きながら人生の豊かさを問う映画「種まく旅人 みのりの茶」が公開を迎える。陣内孝則が16年ぶりの主演を務めることでも注目されており、また第一次産業に焦点を当てていることから、農林水産省など国の機関からも関心が集まっている。陣内演じる金次郎との間に温かいきずなをにじませながら、自らの生きがいを模索していくヒロイン・みのりを演じた田中麗奈が、茶畑の町で行われた撮影で感じ得たこと、そして役に込めた思いを語った。(取材・文/奥浜有冴、写真/本城典子)

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東京でデザイナーの職を失ったみのり(田中)は、祖父・修造(柄本明)が営む大分の有機緑茶農家を訪れる。病に倒れた修造の代わりに、成り行きでお茶作りをすることになったが、何もかもが手さぐりの状態。そんな様子を側で支えるのが“金ちゃん”こと金次郎(陣内)だった。市役所の農政局長という本来の姿を隠しながら、金ちゃんはみのりとともに農薬を一切使わない有機農法に懸命に取り組む。思い通りに行かない自然との共生の中で、2人は各々の幸せを実感し、新たな道を見つけていく。

実際に自ら手を汚しながら行ったお茶作りのシーンを、田中は目を輝かせながら振り返る。「茶葉を手で揉むと、だんだんしんなりしてくるんです。その感触がとにかく新鮮で。釜煎り茶を作る際は、茶葉が大胆に煎られていく光景に驚きました。いざ自分でやってみると意外と出来たので、うれしかったです」。そう語る表情は、純粋な気持ちで現場に臨み、その瞬間に感じたことを演技へ反映させていく、真っすぐな姿勢をうかがわせる。事実、合間に田中がもらした素直な感想も、塩屋俊監督が本番にセリフとして組み入れたほどだ。

一方で、農業に従事する人々の苦労も強く感じたという。撮影期間中は毎日畑に通っていたというが、早朝からの作業は体力を要した。生き物を育てることについて身をもって理解したと、役がはらむ責任の重さを田中はかみしめる。さらに塩屋監督の“農業を格好よく撮りたい”という情熱に触れたことも胸を動かしたと述べ、改めて出演の喜びを言葉にした。

みのりは挫折を経験し、自分の過信を徐々に自覚していく。ある世界では一人前だったはずの自分が、別の世界では未熟者だったと思い知らされる役どころだ。「自分の生き方について疑問をもったり、考えたりすることは、どんな職業でもきっとあると思うんです。みのりは”自分らしさ”を守りたくて会社をはなれ、自然の中に身を置きながら少しずつ答えを見つけていきますよね。失敗したことも意味があるのだと、考えを変えていく。私もお仕事をする上で、“自分らしさを出したい”という思いが沸いたりするので、みのりの気持ちは理解できます。それがいい結果につながるかどうかは、状況によって様々だと思いますが、その感情のせいで挫折をしたことは、決してマイナスだけじゃないはず。だから共感できる面もあるし、みのりがある種、分身のように思えたりもするんです」。等身大の女性を演じながら、生き方について洞察を深めたことを明かす。

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二面性のある役柄を演じた陣内との共演は、多くの刺激をもたらすものだった。「すごく感性の豊かな役者さんで、尊敬しています。お芝居の技術やセンスに関して、本当に変化球をたくさん持っていらっしゃるので、常にわくわくさせてくれるんです。『これは陣内さんにしか出来ないんだろうな』と思う印象的な場面がいくつもありました」と、感慨深げに振り返る。「金ちゃんが笑うシーンがあるんですけど、心の底からピュアで、見ている人が一緒に幸せになれるような笑顔をされているんです。役の秘めている心のあり方や性格が、一瞬にして周囲に伝わるようなお芝居をされていて。『こういう風に笑うんだ!』と、素敵な驚きを与えて下さるんですよね」と述べ、様々な角度からのボールを受け取るのが楽しかったと明かす。

感性で行動するみのりと金ちゃんを、冷静にサポートする市役所農政課の職員・木村を演じたのは、吉沢悠。「役の立ち位置をはっきりと表現して下さっていたので、頼もしい存在でした。木村のキャラクターが、みのりと金ちゃんの人生観をより浮き彫りにする力を持つので、物語にとって重要な存在です。それを吉沢さんが担ってくださったので、ずっと安心感がありました」。

農業という分野を取り上げる本作は、派手な事件が起こるわけでもなければ、特殊な演出もない。しかし、困難にぶつかり希望を失い、迷いながら新しい希望を自力で見つける人間の背中を、しっかりと描いている。そして、地に足をつけて生きようとする人間のひたむきさを、優しく映し出している。

こういう映画こそ未来にもずっと残り続けてほしい、と田中は熱を込める。「運命の流れの物語でもあり、人の成長物語でもあると感じています。日常のかけがえのないものの存在に気づけるような、素朴で温かな気持ちを呼び覚ましてくれるんです。昔からの文化を重んじながら、現代の価値観をどう生かすかというヒントもあるので、きっと幅広い世代に共感をしてもらえると思っています」

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