劇場公開日 1979年7月21日

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「歴史を変えた大傑作だが続編の劣化が酷い」エイリアン アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0歴史を変えた大傑作だが続編の劣化が酷い

2021年5月25日
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1979 年のアメリカ映画。日本公開は同年 7月21日。監督:リドリー・スコット、脚本:ダン・オバノン、美術監督:H・R・ギーガー、音楽:ジェリー・ゴールドスミス。

大型宇宙船の薄暗い閉鎖空間の中で、そこに入り込んだ正体不明のエイリアンに乗組員たちが次々と襲われる恐怖を描いた SF ホラーの古典であり、監督のリドリー・スコットや主演のシガニー・ウィーバーの出世作でもある。卵から順を追って変態し、遂には人の体を食い破って成体になる血液が強酸性のエイリアンというアイデアを思い付いたのは脚本のオバノンで、このアイデアに言いようのないリアルさを与えたのが H・R・ギーガーのデザインであった。

外国人を意味する名詞「エイリアン(Alien)」が、「(攻撃的な)異星人」を意味する単語として広く定着するきっかけともなり、空港の入館ゲートの「外国人」という表記が Aliens から Foreigners に改められるきっかけを作った。公開時のキャッチコピーは「宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない In space no one can hear you scream.」であった。

エイリアンのデザインは、シュールレアリスムの巨匠デザイナー H・R・ギーガーが担当した。彼の起用こそがこの映画の成功を決定付けるものであった。本作以降、続編3本とスピンオフが製作されシリーズ化した。また、スコット自身による本作の前日譚として、2012 年に「プロメテウス」、2017 年に「エイリアン: コヴェナント」が公開されたが、2009 年に脚本家のオバノンが亡くなってしまったため、物語のプロットはスコット監督の好きなように変更されてしまい、格段に質が低下してしまったのが残念でならない。デザイナーのギーガーも 2014 年に亡くなっており、彼の独特な世界観も失われてしまっている。ギーガーが参加したのは1作目と3作目のみであり、2作目に出てきたクイーンなどは別人がデザインしたものである。

卵が開くと覗きたくなるのは生き物として当然の好奇心であり、それを見るために頭を動かして目を持って行くということは、すなわち寄生するための呼吸器である鼻や口を持って行くことに他ならず、寄生体はそこを目掛けて飛び付いて呼吸を支配し、引き剥がそうとすると強酸性の血液が邪魔をするというのは、非常に合理的であり、空気呼吸を行う陸上動物のほとんどが当てはまる。つくづく秀逸なアイデアである。

1作目では、捕まえられた犠牲者の肉体を材料にして卵を作るという無性生殖が描かれており、半分卵化した登場人物のシーンも撮影されたらしいが、スコット監督がそのシーンをカットしてしまったため、2でクイーンが登場する余地が生まれてしまったのは痛恨のミスであったと思う。更には、最新作の「コヴェナント」に至っては、卵さえも誰かが意図的に作ったものだという話になっていて、折角の神秘性をドブに捨てたような改変には非常に落胆させられた。

第1作のエンディングは3種類考えられ、全員死亡するというものから複数人が生き残るというのまであったが、最終的に現行版に決着した。生き残る役になったシガニー・ウィーバーは、その後プロデュースまで兼任するようになり、発言力が増して作品の方向性を大きくねじ曲げるに至ったので、1作目で殺しておくべきであった。

音楽担当は大ベテランのゴールドスミスであったが、最初に作った曲は瑞々しいものだったために没になり、次に作られた曲は静的で不気味なものだったためにスタッフを満足させた。作曲に要した時間はわずか 10 分に過ぎなかったという。クルーの目覚めのシーンではゴールドスミスの過去の作品が流用されている。また、エンドクレジットで流れているのはゴールドスミスの曲ではなく、映画と縁もゆかりもないハワード・ハンソンの「交響曲第2番 ロマンティック」が使用されている。これを不満としたゴールドスミスはフォックスに説明を求めたが、結局覆ることはなかった。曲想が本編中とあまりに違うので面食らったが、誰か余計なことをやらかしてくれたらしい。

終わったと安心していたら実はもう一波乱というエンディングは、スコット監督のアイデアで、脱出艇でのラストシーンの追加撮影のため、4日のスケジュール延長を要求した。会社は難色を示したものの、彼は今までの定石を引っくり返すと会社を説得して了解を得たものである。スコットの目論見通り「事態が解決したと見せかけてさらにもう一幕がある」という手法は成功し、以降のホラー映画に新しい定番をもたらした。
(映像5+脚本5+役者5+音楽5+演出5)×4= 100 点

アラカン