劇場公開日 2012年8月25日

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「何をしても、良いからこそ」るろうに剣心 ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5何をしても、良いからこそ

2012年8月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

知的

NHKで人気を博した大河ドラマ「竜馬伝」を手掛け、今回が初めての劇場映画の演出となる大友啓史監督が、同ドラマでもフレッシュな魅力を振りまいた佐藤健、「愛と誠」などの作品で着実にキャリアを重ねる武井咲を主演に迎えて描く、人気漫画の実写版となる時代劇。

「何をやっても許される、自由度の高い空間。それが、時代劇だ」。「最後の忠臣蔵」や、「雷桜」など、時代劇が大手メジャー配給会社で乱発されていた一時期、その現象を解説する記事にあった言葉だ。

なるほど、理にかなった評論である。「時は、戦国」その一言を最初に挿し込んだ瞬間から生れ落ちる時代劇は、誰もリアルタイムを経験したことのない世界を、想像で、妄想という絵具をで白紙に叩き付けるある種乱暴なジャンルである。だからこそ、「こんな事、あったかもねえ」という奇想天外な暗殺劇や殺戮劇、謎のラブロマンスも現実味をもって描ける。

じゃあ、何をしても良いのか。それは、多くの駄作を作り上げて観客の舌打ちを呼んできた時代劇ブームの顛末を見れば明白だ。「好きにやっても良い」という事は、「日本の過去を使って叫びきる、強い物語、声高な主張」があればこその芸当。外面だけ整えても、分かる人は分かってしまう厳しい作品作りでもある。

その点では、本作は極めて精巧に作り上げられた良作である。クールジャパンの人気を静かに支えてきた人気漫画「るろうに剣心」をベースに、明治の裏舞台に咲く一人の男が立ち向かう戦いを描く物語。

持ち前の柔らかい物腰と、強靭な意志、熱を画面いっぱいにばら撒く佐藤のもつ幅の広さを確認できるのも大きな魅力だが、それ以上に本作が意味をもつのは、時代劇というジャンルに強引にねじ込まれた現代アクションの最先端技術にある。

もちろん、これまでにワイヤーやCGでアクションを描く日本映画はあった。だが、「静寂」と「心の機微」という分野で独自性を貫いてきた日本時代劇の世界で、ここまで派手にアクションを前に押し出した演出も珍しい。「竜馬伝」演出時に若干の批判を浴びた動の人物描写、乾いた褐色の世界もマッチして、どこまでも「格好良い」男の美学をアクティブに提示する。

誰も知らない、明治時代。ならば、暗躍する男たちの大暴れをCGで叩きつけても、文句は言えまい。そのあっけらかんとした挑発と挑戦は、現代映像界をひた走ってきたスタッフだからこそ生まれる、革新と自信によるものだ。

「悲哀」と「潔い美学」一辺倒で、日本映画界に独自の立ち位置を確立してきた時代劇という表現手段。本作はその牙城に切り込み、「とにかく華麗に、早く、格好良い」という楽しみ方を提案する。その知的な意欲は、今後の作品に対して大いに期待を持たせてくれる一本に本作を高めてくれる。

現代を代表する人気俳優を贅沢に投げ込んで作られている本作。とにかく、その時代劇への挑発力と、娯楽作としての完成度を楽しんでほしい作品だ。

ダックス奮闘{ふんとう}