劇場公開日 2012年12月22日

「2本の糸が途方もなくよじれ合う」もうひとりのシェイクスピア マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.02本の糸が途方もなくよじれ合う

2013年1月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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興奮

知的

この作品、2本の糸が絡み合う。
数々の名作を残したシェイクスピア。ところが400年もの間、彼の直筆による原稿は何一つ残されていない。シェイクスピアのものとされる作品は、実はほかの人間によって書かれたのではないか。1本はそうした推論にもとづくミステリーの細い糸。

もう1本は、シェイクスピアの正体とされるオックスフォード伯と、彼を取り巻く政治情勢だ。
エリザベス1世の統治下で宰相の座につく時の権力者セシル卿は「芝居は悪魔の産物」として、民衆が芝居に扇動されて政治が思うようにならなくなることを恐れていた。ましてや、貴族が芝居を書くなどということが許されるはずもない。オックスフォード伯は、自身が書いていることを世間に知られてはならない。そして、自身の文章によって政治を動かそうとする。このサスペンスの糸は太い。

この2本の糸の絡み合いは、現在と若き日の交錯によって途方もなく複雑によじれ合う。単にシェイクスピアの正体を暴くといったものではなく、その時代における文章の持つ力と権力による計略のせめぎ合いにザワ立つものがある。

たしかに歴史や政治観、民衆をトリコにするほどの文章力と教養を考えると、実はシェイクスピアが貴族だったというのもあながち作り話だとも言い切れない。

互いを思いやるオックスフォード伯とエリザベス1世を演じたリス・エヴァンスとヴァネッサ・レッドグレイヴ、そして情熱的な若き日の二人を演じるジェイミー・キャンベル・バウアーとジョエリー・リチャードソン、どちらもナイス・キャスティングだ。
16世紀末のロンドンを再現したセットとVFXも素晴らしい。

マスター@だんだん