バトルシップ : インタビュー
浅野忠信「バトルシップ」でつかんだ確かな手ごたえ
三段跳びになぞらえれば、飛躍的なステップだ。「マイティ・ソー」に続き、ハリウッド映画第2作となる「バトルシップ」に出演した浅野忠信。米メジャー、ユニバーサルの創立100周年を飾るアクション大作で、エイリアンと激闘を繰り広げる海上自衛隊の艦長ナガタという重要な役どころに抜てきされた。さらに、12月にはキアヌ・リーブス主演の「47RONIN」の公開が控え「ありえないくらいすごいこと」と感激しつつも、決して慢心することはない。「この先、ちゃんとやれよということですから」と気を引き締め、さらなる飛躍を期している。(取材・文/鈴木元、写真/堀弥生)
「マイティ・ソー」でインタビューをした昨春の段階で、「バトルシップ」の撮影は終えていた。そのときはあえてふれなかったが、作品が完成し公開が近づいたところで話を聞くと、言葉の端々に高揚感と期待感が漂う。2作目ということもあり、どこか余裕のようなものも感じられるのだが……。
「それはすごくありました。『マイティ・ソー』の最初の頃は頑張っている自分がいたんですけれど、途中からは頑張っても無理だと開き直った自分がいたんです。だから今回は、最初から開き直って突っ込まないようにしていたので、そういう意味では楽でしたね」
決して楽な撮影でなかったことは想像に難くないが、国内外を問わず映画という共通言語があれば順応できる才能のなせる業だろう。「バトルシップ」出演のきっかけも「マイティ・ソー」の撮影中で、その経緯を聞くと実に面白い。
「撮影でロサンゼルスにいるときにエージェントから、ユニバーサルで『47RONIN』という作品をやろうとしているからプロデューサーに会って来いと言われたんです。それでお会いして話をしていたら、実はその前に『バトルシップ』という作品もあるから、良かったら監督に会ってみればということになり、監督に会える機会をもらったんです」
オーディションを飛び越えて、いきなりの監督面接である。監督は「キングダム 見えざる敵」「ハンコック」などで知られ、俳優としても活躍するピーター・バーグ。この対面によって、話が一気に進むのだ。
「覚えているのは、好きな映画は何だと聞かれて、『カッコーの巣の上で』ですって答えたら、『それは僕が一番好きな映画だ』って……。そこから意気投合して、髪は切れるかといった具体的な話になっていきました。米国では、監督と面接ができれば大きなチャンスというか、話してみて『こいつは違う』とか『こいつはいけるのでは』という感じなんだと思います」
まさに“持っている”とはこういうこと。14カ国から2万人が集結する米軍主催の環太平洋合同演習(RIMPAC)に、日本から参加する海上自衛隊の自衛艦みょうこうの艦長ナガタ役を射止めてしまった。だが脚本を読み、壮大なスケール感と自身の役の大きさに「これは気合を入れないとまずい」と自戒。初の艦長で日本人役ということもあり、自衛隊の横須賀基地に赴いたり、米海軍のさまざまなシミュレーションを視察するなど綿密なリサーチを行った。撮影では、外国人の日本人に対する見方の変化も感じたという。
「前よりも日本のことをよく知っているし、知ろうとしている感じがすごく伝わってきた。昔だったらメガネをかけて、数学が得意だったらいいみたいなところがあったのかもしれないけれど、一目置かれているのが分かるんですね。片言ですけれど、日本語で積極的に話しかけてくれるし、勘違いしないように気をつけてくれていました」
合同演習は突如、洋上に巨大なモニュメントのような謎の物体が現れたことをきっかけに本物の戦闘へと様変わりする。波状攻撃を受けるみょうこう。本能的に反応するような緊迫したシーンでは、「何やってんだよ!」といった日本語のセリフも飛び出す。だが当然、ほとんどのセリフは英語で、その対応に関しては「自主的には勉強はしていますけれど……」と自ちょう気味な笑顔を浮かべる。
「先生をつけられれば一番いいんでしょうけれど、僕も毎日時間がメチャクチャなので(苦笑)。重要なシーンでは日本語をしゃべれる方がいるんですけれど、それ以外は顔つきだけ(が日本人)でほとんどが米国人。日本人がひとり、ポツンといる感じが多かったですね。しかも現場に入ると通訳さんの入る余地がないので、皆がワーワーと英語でやっているのをなんとか聞き取って演技をしている感じでしたね」
悪戦苦闘する中にあっても、米軍の新米将校役で主演のテイラー・キッチュとは良好な関係を築けたようだ。当初は犬猿の仲だった2人が、エイリアンとの激闘を通じて深いきずなで結ばれていく設定。くしくも「バトルシップ」と同じ4月13日に日本公開の「ジョン・カーター」でも主役を務めた注目株を浅野は「本当に面白い俳優」と評する。
「気を使っている部分はあるんですけれど、逆に余計な気は使わない。しっかり役になりきっているので、皆をこっちに向かせて自分のやりやすい状況をつくっていくのがすごくうまい俳優。思いついて、こういうことをやりたいという感じになったら、ちゃんと伝えてくれる。僕もセリフでは対応できないけれど、リアクションを変えたりすると喜んでくれるんですよ。そういうやり取りはすごく楽しかった」
そして完成した作品は、自身が想像していた以上に出番が多かったという。エイリアンとの戦いはほぼ全カットがCGのためつながりをイメージしにくく、しかも「マイティ・ソー」では撮影した分量に比べかなりカットされたという経験もあり、控えめ!?に予想していたのだ。
「撮影が終わったときには、そこまで自分は出ていないんじゃないかと勘違いしていたんです。そうしたらけっこう出ていて、しかも重要な役。本当にビックリしました。そういう意味では、いい具合に力が抜けていて良かったのかもしれないですね」
昨年は日米開戦から70年。撮影はその前年だったが、ある種節目の時期にハリウッド映画とかかわっていたことは、母方の祖父が米国人の浅野にとっては感慨深い記憶となった。
「うまく言葉では言えないけれど、戦争を経験した人にとっては大変なことだったと思う。でも、そこからいろいろな絆が生まれ僕たちの世代が生まれ、今はケンカをすることもなく米国に行って、米国人と映画を撮っている。しかも、パールハーバーで撮影ができたことにはすごく感動しました。特別な作品になりましたね」
「小学生のときに何度も見て、今でも見ている」という「バック・トゥ・ザ・フューチャー」をはじめ、大好きな作品が多いユニバーサル映画の100周年記念作で“日本代表”として参戦し、準主役級へと大幅にステップアップ。さらに、「忠臣蔵」をベースにした「47RONIN」では吉良上野介に扮している。かねてハリウッドでの最初の10年は、チャンスを見つけ鍛えるための期間と話していたが、誰もが認めるロケットスタートといえる。
「立て続けに3本なんて、非常にありがたい出だしを用意してもらい、ありえないくらいすごいことだと思っています。しかも、その1本1本が意味のある大きな作品。自分の役も『マイティ・ソー』のホーガンよりナガタの方が大きいし、ナガタより吉良の方が大きいですから。これはもう本当にこの先、ちゃんとやれよということだなと思っています」
とはいっても、ハリウッドだけに固執するわけではない。日本でも最近は、ドラマやCMでコミカルな新境地を見せたり、直木賞作家・高村薫のデビュー作を映画化する「黄金を抱いて翔べ」では金塊強奪をもくろむ強盗団の主要メンバーに挑むなど精力的だ。「自分の可能性を試そうと頑張ってきて、最近ようやく皆さんに届くようになった」と確かな手応えもつかんでいる。次なるジャンプへの期待を抱かせる、充実感に満ちた笑顔が印象に残った。