「現代版「大人は判ってくれない」」少年と自転車 梅薫庵さんの映画レビュー(感想・評価)
現代版「大人は判ってくれない」
ジャンとリュックの兄弟監督が、日本を訪れた時に聞いた、ある少年の話を、フランスを舞台に映画化。
少年の大人に対する、剣山のような激しい苛立ちと、何処にもぶつけようの無い感情が、一見、飾り気のない映画的リズムのあいだから、溢れ出てくる。
映画の最中、その波に飲み込まれて、観ているこちらの方が、少年に苛立ちを感じるほど。生理的にこの少年が、嫌いになる手前まで行った。
少年が街の不良にそそのかされて、強盗をやってしまったあとのこと。不良には見捨てられ、盗んだ金を借金苦の父親に渡そうとしたら、父親からも拒絶される。もし日本のありきたりな、月並みな映画なら、自暴自棄になるところ。
しかし少年は、そこで踏みとどまる。自分の面倒を何かと見てくれた、週末だけの里親のところに戻ってくるのだった。
何故そうなったかは、わからない。彼が今まで信じていたものすべてに、裏切られたからなのか。それとも、真摯に自分と向き合ってくれていた里親、少年と同じ町に住む美容師の女性が向けてくれた情が、そうなってはじめてわかったのか。
この里親を演じるのが、セシル・ドゥ・フランス。イーストウッドの「ヒアアフター」にも出たいた。彼女の演じる美容師が、何故、少年の里親になろうとしたのかも、映画でははっきりと示されない。けれど、少年としっかりと向き合い、彼のやり場のない感情を、言葉ではなく、無言で受け止めているのが、清々しい。
終盤、少年は変わる。里親の女性にも、心を許す。ここでまた事件が起こる。しかしそれは少年と里親との絆を深めるものだった。これで観客は少しばかり肩透かしを喰らうのだけれど、ちょっと尻切れとんぼのようなだが、曇った空からうっすらと薄日が射すように、少年の未来を暗示させるラストは、感動というのは大袈裟すぎるが、幸福感が心ににじんわりとしみてくるエンディングは、観慣れているアメリカ映画とは違って、味わい深い。
4月17日 渋谷Bunkamura ル・シネマ