劇場公開日 2011年11月26日

ハードロマンチッカー : インタビュー

2011年11月25日更新

松田翔太、“痛み”を分かち合った下関での日々

10代の頃に刺激を受けたというクエンティン・タランティーノ監督の「ジャッキー・ブラウン」やデビッド・フィンチャー監督の「ファイト・クラブ」──バイオレンスだけではない、「精神世界と現実世界がうまく融合している世界観がたまらなく好きなんです。タランティーノやフィンチャーの世界観も好きだけれど、写真家でもあるスティーブン・クラインの世界観も好き」と、何の迷いもなく自分の“好き”な世界観を言葉にする実力派俳優、松田翔太。自分自身が何を望んでいるのかを明確に伝えるその姿勢は、たまらなく潔い。そして、新作映画「ハードロマンチッカー」にもそれらに通じる世界観があり、ハードでロマンチックな男たちの“痛み”と“生”、深い人間ドラマが描かれている。(取材・文/新谷里映、写真/堀弥生)

同作は、CMディレクターとして1000本以上の実績をもち、山口・下関出身・在日韓国人二世の出自を立脚点にした映画「偶然にも最悪な少年」「THE 焼肉ムービー プルゴギ」を発表してきた、グ スーヨン監督の半自伝的小説の映画化だ。暴力という選択しか知らない若者グーが、バイオレンスな世界に身を投じながらもたくましく生きていく物語で、松田は「何かを訴えているわけではない、社会的なメッセージがないところがいい」と語る。

「映画化の話を聞いてすぐに原作を読みました。タイトルからは想像のつかない内容で、でもものすごく濃い内容で、参加したい! と強く思ったんですよね。ただ、限定した世界の話にはしたくなくて。グーがいる状態、精神状態をフィーチャーしたいと監督に相談しました。なので、映画では2011年の現代の話になっています。監督と意気投合したのは、痛みや衝撃の描写について。交通事故にあったような、海のなかでサメを見たような……思わずハッとする、現実をよりリアルに感じる瞬間というか、アドレナリンがバーッと出てくるような描写を撮りたいねって。僕もそういう演技を望んでいたので、現場が楽しみでならなかったんです」

その狙い通り、観客は「バイオレンスの中に構築された人間ドラマ」に衝撃を受けることになるだろう。ハードでロマンチックな男たち=ハードロマンチッカー。すべてが凝縮されているタイトルの解釈についても、松田は自分の言葉できちんと伝える。

「バイオレンスだけならハードロッカーでも良かったかもしれない。でも、グーはすごく人肌恋しくて、優しさに飢えていて、仲間にはすごく優しくて、本当は星空を見て夢を語るような青年なんです。けれど、周りがそうはさせてくれない。彼の周りで勝手に物事が起きてしまう。そういう環境に彼はいて、僕はそこに悲しさを感じたんですよね。あと、痛みを表現していくことで、バイオレンスではなく愛情表現の裏返しだと思えてきた。痛みを感じさせているというよりはオレのことを知ってくれ! と言っているように感じてしまったんです。だから後半、グーが子どもの頃からの顔なじみの郷野組組員・庄司さん(真木蔵人)からあるモノを受け取って、その意味を考えたときは、本当に心が痛くて……。あのシーンはすごい衝撃を受けました」

「星空を見て夢を語るような青年」であるのに、外見は金髪オールバックという、見た目とのギャップも衝撃さを増す重要なアイテムだ。松田が最初に小説を読んだときにイメージしたグーは「体つきが良くて、大柄で、色黒で、髪の毛はボサボサ……という野生っぽい若者」だったそうだが、監督の「金髪にしたらどうだろう?」という提案により、金髪&細身のパンツ&ロングコートという映画版グーのスタイルが生まれた。

「衣装合わせのとき、いろいろなジャンルの洋服が用意されていたけれど、それをひとつずつ着ていって合うものを探すより、監督のイメージに近づきたかったんですよね。どういうイメージなのかを聞いたら、ここにはないからもう一度衣装合わせをしようって。それで後日、監督が用意してくれたのが、あの細身のパンツとロングコートだった」

また、「アジアのどこかの外国、日本じゃないような港町、そんな空気感のある街」と表現する下関という土地柄と方言──聴覚から入ってくる独特の世界観もグーとその周囲を描くうえで欠かせないものだった。「もともと九州の方に住んでいたことはあったので、なんとなくですけど、イントネーションは感じることができて……。下関弁のセリフを吹き込んでもらったテープを聞いて覚えました。英語を話しているような気分になれるので、ふだん恥ずかしくて言えないような言葉もはっきり言えちゃうんですよね。特に良かったのは、標準語で『バーカ』『うるせえんだよ』と言っても軽い感じがするけれど、『ボケ!』だと、黙っていろよって意味も加わるというか、迫力が増すんですよね」

そんな下関弁が飛び交うケンカのシーンは息をのむほどの迫力で展開される。松田が気に入っているのは、グーと温度が一緒だという、チョー高(朝鮮高校)ボクシング部OBのパクヨンオ(遠藤要)との乱闘シーンだ。アドレナリンが出まくっていたという、熱気さく裂のラストシーンについては、言葉にも熱が入る。

「僕のタイミングで、鉄パイプで相手を殴って、一瞬の静寂があってから乱闘が始まるシーンなんですけど……。遠藤くんが急に重い鉄板を持ち上げたんです。それは全く予定していないことで。僕の逃げる場所もふさがれて、あの瞬間は、本当に山でクマに出合ったような衝撃でしたね。オレのアドレナリンがパンパンの演技を見て、要くんもブチ切れちゃったみたいなんですけど、空ぶりするわ、壁にぶつかるわ、美術部は怒鳴り散らしているわ(苦笑)。めちゃめちゃ緊張したけれど、いいシーンになりました」と振り返る。

作品について、役どころについて、次から次へと紡ぎ出す言葉のひとつひとつが、松田がいかに今作の世界観を愛しているのかを証明している。タイトルにちなみ、男のロマンについて聞いてみた。
「自分、カッケーなっていう、自分に浸れる瞬間が男のロマンじゃないですかね。だから、強さもロマンだと思う。勇気を持てたとき、自信が持てたとき、あと、意識せずに人に優しくできたとき。すっと優しい言葉をかけたり、行動できたときが(男として)格好いいと思える瞬間だと思います」

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