シネマ歌舞伎 坂東玉三郎 鷺娘のレビュー・感想・評価
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女性の一生の夢物語
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路に鳥と書いて鷺(さぎ)
『鶴の恩返し』を想わせる擬人化されたお噺。
はらはらと舞う粉雪の中、角隠しに白無垢を身に纏ったのは、何故か人間の世界に迷い込んだ幼鳥だろう。
手にした蛇の目傘を置き、人として歩み始める。
白から赤への転換。幼女から少女へ。
舞いは途切れることなく、赤から紫への転換。蝶の如く少女から成女へ。
更に、紫から桃色への転換。まるで女性の安寧が象徴される。
やがて空が陰り始め、桃色から再び白への変換。
再び降り始めた雪の中、蛇の目傘を手に取り直した女性は舞うことをやめない。
気がつけば降りしきる雪は降り積もり、舞いは更に激しさを増す。
いつの間にか、白地に手負いの傷痕が赤く染まる。
それは人生の勲章か、鳥ゆえの宿命か。知る由もない傷を背負い、命の灯火が静かに消えゆく。
後に残るのは暗く降りやんだ雪景色の静寂。
同時に上映される『日高川入相花王(ざくら)』の人形劇化に似て、擬人化された演出により、逃れられない人、特に女性の命運を、客観的に観客に相起させ、静かに激しく描かれる舞台は、年齢を重ねた女性ほど共感と感慨を抱けるのではないかと思われ、半時の短い演目ながら玉三郎の芸術的審美が堪能できる小さな宝石のような作品である。
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