「もやもやも含めて傑作」007 スカイフォール 古泉智浩さんの映画レビュー(感想・評価)
もやもやも含めて傑作
最初に見たときは、それらしいテーマがあるみたいだけどなんともモヤモヤしたままで、クライマックスは暗くて眠くなるし、なんだかとてもすっきりしなかった。
それで宇多丸さんのシネマハスラーを聴いたら映画の魅力を大変素晴らしく解説してくれていて、たまらない気分になってもう一度見に行ったらあまりに面白くて魂消た。
アクション一つ一つがたいへんハードでリアルかつダイナミズムに溢れていてよかった。かつてのアホっぽい007とは違っていた。
ただ初回でモヤモヤした感じがした理由も分かった。
ハビエル・バルデムがMへの執着や確執を非常に根深く抱いていてそれがこの映画全体のテーマでもあるのだが、顔の迫力で押す一方、Mとの関係がどうだったのかきちんと描かれてないし、説明もなんとなくだった。それが粋な表現なのかもしれないのだが、もう一言欲しい感じがした。要は非情な使い捨て的な関係だったということなのだろうが、ともすれば男女の関係すらあったのかな。
また、ハビエル・バルデムがあんな厳重な監禁状態からどうやって脱獄したのかもちょっと説明して欲しかった。
上海のくだりが非情にもやもやしていた。結局なんだったのか不明なままで、狙撃がどんな意図だったのかとか、カジノの元売春婦の女がなんで殺されなければならないのかとか、そもそもハビエル・バルデムが彼女に執着しているような感じもせず、説明がないままになんとなくご都合主義的に使われている感じがした。絵面が非情にいいし面白いから誤魔化されてしまいがちな分、モヤモヤした。
しかしモヤモヤが全部すっきりすれば完全に面白いかと言えばそうでもない場合が多々あるのでこれはこれで粋と言ってもいいのかもしれない。
あんな権威たっぷりな議会が銃撃戦の現場になって国会議員が右往左往する様などは大変痛快でたまらない。クライマックスの暗い銃撃戦も敵の人数が分かる感じや、DIYで武器を自作したり罠を仕掛けるのも大変盛り上がる。