劇場公開日 2012年1月14日

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ヒミズ : インタビュー

2012年1月13日更新
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染谷将太&二階堂ふみ、快挙を置き去りにする新たな一歩

「愛のむきだし」がベルリン国際映画祭、「冷たい熱帯魚」がベネチア国際映画祭、「恋の罪」がカンヌ映画祭──ここ数年に発表した3作は3年連続で世界三大映画祭に招かれ、いずれも絶賛を浴びた鬼才・園子温監督。最新作「ヒミズ」を手に再びベネチアの地を訪れた園監督の隣には、染谷将太と二階堂ふみという若き俳優がいた。日本人初の快挙、同映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞(最優秀新人俳優賞)をダブル受賞した染谷と二階堂の2人に、世界を感動で震わせた「ヒミズ」について話を聞いた。(取材・文/新谷里映、写真/堀弥生)

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ベネチア国際映画祭での上映後、約8分間のスタンディングオベーションを受けたことからも、感動と衝撃がどれほどのものだったのかが伝わってくる。129分間、スクリーンに釘付けにさせる脚本、役者のパワーは計り知れなく、この映画によって主演のふたりは、観客の記憶に深く刻まれることになる。住田役の染谷は「すごいことになるんだろうな……とは思っていたけれど、やってみたら思っていた以上にすごいことになって。震災後、園さんは脚本を(大きく)書きかえたんですが、前以上に素晴らしい脚本に仕上がっていたので、役者としてすごく燃えましたね」。脚本を手にしたときから「ヒミズ」に特別なものを感じていた。茶沢役の二階堂もその言葉に同調し、「2人ともオーディションを受けていたので、もともとこの作品をやりたい! という思いは強かったんです。でも、気持ちが強い分、怖さや不安もありました」と1年前の自分を思い返す。

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「ヒミズ」は、「行け!稲中卓球部」で人気を博した漫画家・古谷実が、それまでのギャグ路線を完全に封印した問題作であり、普通の大人になることが夢の住田、愛する人と守り守られ生きることが夢の茶沢──絶望だらけの世界に身を置く15歳の少年少女の青春物語だ。これまでオリジナル作品を撮ってきた園監督にとって、初の原作ものとなる。「純粋に人生を悩んでいるだけの2人を描きたかった」と園監督が言うように、15歳の葛藤(かっとう)は痛いほど胸に突き刺さる。その複雑な感情を演じることは、相当難しかったはず。しかし、2人の俳優は「楽しくてしかたがなかった」と目を輝かせる。住田として身をささげた撮影期間を、染谷は「毎日、度肝を抜かれる日々でした。傍から見たら戦場みたいな感じですね。どこから弾が飛んでくるか分からないというか、『愛のむきだし』じゃないですけど(笑)、見えない弾丸が飛び交っていた感じです。でも、そういう場で演じるのは、ものすごく楽しくて。楽しい思い出しかないないんですよね」。二階堂も同意見で「一度も苦だと思ったことはないです」と言葉を足す。

ふたりの繊細かつ身を切るようにぶつかり合う演技に、観客はぐいぐいと引き込まれ、その吸引力はやがて温かな涙に変わっていくだろう。なかでも、住田と茶沢が本気で取っ組み合いをして殴り合うシーンは、強いインパクトを与える。染谷いわく、「あれだけ本気でやらせてくれる女優さんはなかなかいない、本気でやりました。すごい女優さんだなと感じたのは、本番でビンタ(平手打ち)を初めてしたとき。彼女、笑ったんですよね。なぜ笑ったのかは知らないですけど、僕が見た限りでは、思ったより痛くて笑っちゃったのかなと。それにしても、あそこであの笑いが出たのは役者としてすごいこと。と、偉そうなことを言ってみました(笑)」。生まれて初めて女性を殴った瞬間だった。一方、ビンタを受けた本人は、「痛かったのは覚えています(笑)。でも、なぜ笑ったのかは覚えていないんですよね……。私は、完成した映画を見て、住田がどんどん追い込まれていく姿、現場で染谷くんが感じていたその苦しみが、そのままスクリーンに出ているなと。そのとき、本当にすごい役者さんだなと思いました」。現場でお互いを高め合えたことも、個々が素晴らしい演技を持っていたからこそ成し得たことだ。

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さまざまな感情をぶつけ合うふたりだが、実際の姿はとても物腰穏やか。しかも、かなりの人見知り。どうやって打ち解けていったのか、また互いの印象はどう変化していったのか、二階堂が語る。「茶沢として住田に接するなかで、染谷くんの印象はたくさんあるんですけど、ひとつ忘れられない出来事があるんです。私はこの現場が大好きだったので、撮影が後半に近づくにつれて、終わりたくない! 終わるのは嫌だって漏らしていたんですね。そうしたら染谷くんが『もうすぐ終わりだね』と笑った。そのときのニコッとした顔が忘れられなくて。私は終わりが近づいているのを実感したくなかったのに……(苦笑)」。染谷の二階堂に対する、ほほ笑ましいいじわるだ。

「あはははっ。そう、にこやかとうよりもいやらしい笑顔で『終わりだね』と言ったんです(笑)。僕も忘れられないというか、腹の立ったことがあるんです。現場でぼーっとしていたら、僕の(後ろに立った状態で)両脇の下にふみちゃんが『コンセント!』って、両腕を入れてきて。あの時はとても腹が立ちまして、本気で蹴っ飛ばそうかと思って追いかけましたね」。まるで住田と茶沢そのもの。「あと、もうひとつ忘れられない景色があって──住田家のボート小屋にソファがあるんですけど、あのセットのソファで、園さんはいつもタバコを吸いながら台本を読んで考えごとをしていたんです。その景色が忘れられないんですよね。お茶目で優しくて素敵な監督です」。二階堂も、「ものすごく愛があって包み込んでくれるような優しさを持った監督だというのは、いつも感じていました。実は染谷くんにやった『コンセント!』を園さんにもやったんです。園さんは何も言わず、そのままスーッと歩いていっちゃいました(笑)」

住田と茶沢というキャラクターを愛し、鬼才・園子温のつくり出す世界に全身全霊で挑んだ染谷将太と二階堂ふみ。ふたりが最後に残したのは、「『ヒミズ』はとても大きな存在だった」という短いながらも重みのあるひと言。「存在です」ではなく「存在だった」と、過去形であることにも納得がいく。輝かしい大きな賞をすでに過去として受け止め、さらなる新しい一歩を踏み出している──そんな決意が伝わる、晴れやかな笑顔だった。

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