「観終わって分かる。英国と米国の俳優の配し方が絶妙」ゴーストライター マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
観終わって分かる。英国と米国の俳優の配し方が絶妙
物語は、雨の夜、古くさい音楽をバックにフェリーの着岸で幕を開ける。
次々とクルマがフェリーをあとにするなか、持ち主を失ったクルマが1台取り残されていく。アクションがあるわけでも、死体が出てくるわけでもない。怒鳴り合いもなく、ただクルマが流れていくだけの導入部。だが、これだけで事件はすでに始まっており、ただならぬ事が起こる予感を漂わせるのだから巧い。
元英国首相アダム・ラングの自叙伝を執筆する仕事を引き受けただけのユアン・マクレガー演じるゴーストライターだったが、取材中にラングのスキャンダルが明るみに出る。国際問題にもなりかねない窮地に追い込まれたラングの過去に触れたばかりに、不可解な疑問が芋づる式に浮かび上がる。
好奇心旺盛なゴーストライターは、その疑問を捨てきれずに、答えを追い求めてしまうというのが本筋。主人公はほかの映画のように屈強な元海兵隊でもなんでもない。語る口調も物静かなブリティッシュ・イングリッシュだ。画像の色調も抑え込まれている。言ってみれば、何ひとつ派手なところがない。
大きなアクションもなく、登場人物の相関が明かされていくだけなのだが、ヘタなアクション映画など舌を巻くスリルとサスペンスで充満している。
登場人物は地味だが、誰ひとりとして無駄な人物がいない。
観終わって分かるのだが、英国と米国の俳優の配し方が絶妙。
けっきょく、最後までユアン・マクレガー演じる主人公だけは氏名が明かされない。“ゴースト”と呼ばれ続ける。まるで、初めから存在しなかったかのように・・・。
ラストの仕掛けもよく、謎が解ける爽快感と意外な結末に息を呑む。
久しぶりに心に残るラストシーンに本物の映画人ならではの職人技を見た。