「ジェット・リーがますます好きになった!」海洋天堂 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ジェット・リーがますます好きになった!
水族館で働くワンは妻亡き後、自閉症の息子ターフーを男手一つで育ててきた。だが、ある日ワンは癌で余命僅かである事を知り…。
ジェット・リーがアクションを封印した感動作。
ジェット・リーがとてもイイ!愛情深い父親が様になっている。
アクションでは鋭い眼差しが、本作では何と優しい事!
脚本に号泣し、ノーギャラで出演したジェット・リーの並々ならぬ意気込みが伝わってくる。
息子ターフーを演じたウェン・ジャンもお見事!
息子と言っても20歳の青年なのだが、その純真無垢な姿が可愛らしい。
冒頭、海に飛び込み心中するシーンから始まり、驚くが、後から、泳ぎが得意なターフーによって助かった事が分かる。
ワン亡き後、一人で生きていく事が困難なターフーを思っての行為。死を選ぶなんてもってのほか!…と思うが、自閉症の子供を抱える親の苦労なんて計り知れない。ましてや保護すべき親は死を宣告されている。大変だね…とは、平凡な生活を送る者の偽善かもしれない。
一命を取り留めたワンとターフー。直接的な描写がある訳ではないが、それはターフーが死を拒否したのだろう。自閉症は自分の世界に閉じこもるとよく聞くが、上手く感情を伝えられないだけという劇中のセリフが印象的。
ワンは死よりも生を選び、最期の時までターフーに一人で生きていく術を教える。
買い物の仕方、卵の割り方、バスの乗り降り、水族館の掃除…。
覚えるのがゆっくりなターフーに、ワンは焦りや苛立ちから怒鳴る事もあったが、一つ一つ手取り足取り教えていく。
謙虚で真面目なワンに、周囲は手を差し伸べる。
密かにワンに好意を抱く隣人女性はターフーを引き取ると言う。
ターフーが幼少のお世話になった先生の手配で施設に迎えられる。
人と人の繋がりの温かさに救われる。
泳ぎが得意なターフーは水の中では“水を得た魚”で、非常に生き生きしている。
海や水が効果的に使われ、青を基調とした名手クリストファー・ドイルによる映像が美しい。
久石譲が奏でる音楽も心地良い。
父は逝ったが、父の教えを守り、一人で生きていくターフー。周囲が温かく見守る。
好きな水の中で大好きだった父の温もりを感じるターフーの笑顔には悲しみは微塵も無く、爽やかな感動が胸に染み入る。