「濃厚で人間味のある面白恋愛映画」モテキ マルヤマさんの映画レビュー(感想・評価)
濃厚で人間味のある面白恋愛映画
私の鑑賞のきっかけは教授の授業だった。教授はこの作品に星5の評価をつけていた。劇中の音楽をはじめ、ガラケーの古さとか、この映画の恋愛を取り巻く表現が、世代としてドンピシャらしい。
結果で言えばわたしもドンピシャだった。いや教授とは年が離れているので、教授と同じドンピシャではないはずだが、これは世代の問題ではないようだ。
劇中の音楽については幅広い世代で親しまれる曲をふんだんに使用しているから、誰しもいずれかの曲に「おっ、知ってるぞ」と反応できるのではないだろうか。私の場合では、ももクロの「走れ!」、エンディングテーマの「今夜はブギーバック」が印象深い。テーマ曲には女王蜂が。わたしはこの女王蜂を最近知り、ヴォーカルのアヴちゃんのスタイルと豊かな表現に心惹かれている途中であった。劇中に女王蜂もバンドとして出演し、テーマを熱く演奏しているが、アヴちゃんのかっこよさといったらない。相変わらずの巧みな高音の使い分け、演技的な歌い方、ドスを効かせたハスキーボイス、細長い手足を魅せつける衣装、、、こんな圧倒的なライブ映像が映画の作中で楽しめるなんてお得すぎやしませんか。
本編については、漫画原作の映像化、ということで、この映画のストーリーも原作にあるのだろうか?それとも書き下ろしか?
作品の詳細をなにも調べておらず、直感的にレビューを綴っているところなのだが、本作では幸世(森山未來)の恋愛模様を完結して見られるようになっている。
というか、タイトルは『モテキ』だが、つまりモテ期なわけで、モテ期とは、誰しも人生に3度は訪れると言われるどうしてもモテちゃう人生の黄金期!というイメージであるが、幸世は「モテ期」でモテていた訳ではない、というのが鑑賞後のイメージだ。いやたしかに、幸世は一言でいえば情けない。ありえない、恥ずかしいと観てて悲しい思いにさせられる言動・行動が多くある。どんなに森山未來が完璧にセカンド童貞の恋愛に疎い陰キャを演じようと、それは森山未來だから許されるのであって一般人だったらどうなのよと、どうしても思う部分はある。しかも幸世の性格と言ったら、見た目の素朴さに反して、図々しくて、デリカシーがなくて、性欲にまみれて、恋愛経験はないのに恋愛にわがまま。好きな女の子であるみゆき(長澤まさみ)を傷つけようとする姑息さも持ち合わせている。そのくせして、自分より上の相手にはへこへこと謙っていて情けない。心の中で毒を吐きフラストレーションを溜め込んでいる。幸世の自室は趣味のCDや本やオナニーグッズにまみれて埋もれているが、幸世自身の現れなのだろうか。幸世はセカンド童貞がセカンド童貞足りうる性根の悪さだ。しかし、自身について一貫性を持っているのだ。好きなものに一直線で、最終的にみゆきが幸世を選んだのも、真っ直ぐな幸世に惚れてしまっていたからではないだろうか。幸世とみゆきが知り合ったきっかけは、Twitterで趣味について共感したから。そしてみゆきから幸世にアプローチを仕掛ける。こんな美人がまさか仕事のできる長髪イケメンより幸世を選ぶなんて、と感じるかもしれないが、ちゃんとみゆきは幸世に落ちてしまっていたのだ。不器用に迫ってくる幸世にではなく、幸世が持っている情熱に惚れているのだ。と私は考えたいのだがいかがだろうか。そして加えて、自分勝手な男が良く見えてしまうのは女あるあるではないだろうか。中身があるというのを前提に、自由人というのは魅力的だ。みゆきが「幸世くんじゃ、私は成長できないよ…。」と一度は幸世を振るが(このみゆきの成長はどういう成長なのかは、わたしの経験と思慮の浅さからは具体的に推測できない)、結局幸世が好きという感情に負けてしまうのだ。幸世という人物は「セカンド童貞」というイメージに踊らされてしまうが、実はモテるに足りうる良さを持ち合わせていると私は考える。
とは言っても、幸世はやっぱりデリカシーがなくて、みゆきの友人のOLを振った時、みゆきの彼氏にキレた時、ずぶ濡れでみゆきに告白しに行った時、何を言うのかドキドキハラハラさせられる。そりゃないだろ…。と言いたくなる事が山ほどあった。
全編を通して、描き方の愉快さ、色々と工夫が凝らされていて面白い。ライブ映像の挿入だったり、幸世の心の独唱をカラオケ風にしたり、冒頭にはPerfumeという大御所中の大御所を交えてミュージカルを演じている。飽きさせない演出。それはエンドロールにまで及んでおり、映像を何度も止めたり巻き戻して見直してしまったエンドロールは私の人生で初めてであった。
御託を並べてしまったが、見応えがすごくて、とってもオススメの映画である。