「寝た子を起こすな。」サラの鍵 レントさんの映画レビュー(感想・評価)
寝た子を起こすな。
その鍵は哀しみの歴史の扉を開く鍵なのか、あるいは新たなる未来の扉を開く鍵となるのか。
戦争体験者の多くは自身のつらい体験を語らずにこの世を去る。あまりにつらい体験なためそれを記憶の奥底に沈めてけして浮かび上がらせないよう口を閉ざすのだという。
幼いサラは弟を守るためにクローゼットに隠した。しかしそれが仇となり弟を死なせてしまう。彼女は自分の体験をだれにも話さずにこの世を去ってしまう。
幼き頃のあまりにつらく悲しい体験。たとえ結婚をして子供をもうけても結局彼女は幸せになれなかった。あまりにもそのつらい記憶が彼女の心を蝕んでいた。
記者のジュリアは夫の実家がユダヤ人から接収された物件であったことから、その部屋に住んでいたユダヤ人家族について調べ始める。
なぜ過去のフランスが犯した罪をあえて掘り起こそうとするのか、寝た子を起こす様なものだと夫や周りから責められる。
誰でも自分の暗い過去を掘り起こされるのは嫌なものだ。特に自分が加害的な役割を果たしたような過去については。
しかしそれでもジュリアは調べようとする。まるで自ら進んで重荷を背負うかのように。それは彼女があえて高齢出産に挑むのと同じだった。高齢での出産育児はとてもリスキーだと夫からの賛同は得られない、それでも彼女は出産を選択する。
たとえ今は重荷を背負うことであっても、それは必ず未来へつながることだと信じているからだ。
過去を掘り起こしその過去の過ちと向き合うことも未来へとつながることだ。過去に目を背ければ同じ過ちを犯すことになり、新たな未来はけして開かれない。彼女がその鍵で開こうとしたのは新たな未来への扉だった。
そしてジュリアは生まれた娘の名前をサラと名付けた。不幸な時代に生まれたかつてのサラに深く刻み込まれた心の傷は彼女を死へと追いやってしまった。あまりにも不幸な人生。せめてジュリアはサラの生まれ変わりとして今度こそ幸せになってほしいとその名を娘につけたのだろう。
ジュリアが娘の名はサラだと彼女の息子に告げるラストシーンで涙を禁じえなかった。