劇場公開日 2011年5月14日

「職人技に、歓喜の拍手を」少女たちの羅針盤 ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0職人技に、歓喜の拍手を

2011年4月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

幸せ

「西の魔女が死んだ」などの作品で知られるベテラン、長崎俊一監督が、成海璃子、草刈麻有などの若手注目女優を迎えて描く、青春ミステリー。

ご当地映画は、ムズカシイ。私自身、その系統の映画制作に携わったことがあるが、ロケーションからエキストラ、台詞にまでご当地ならではの制約が張り巡らされ、作り手を雁字搦めにしてしまうことが多い。細かい配慮が配れる作り手が求められる、特殊な映画作りになってくる。

その点において、この作品は非常に上質な一本である。本作の舞台は広島県福山市。作品中には、観光スポットから地元ホテルまで、とことん福山市の売りが練り込まれている。それとなく、かつ、華麗に。

もちろん、それだけならば他のご当地映画群と変わらない。本作の特徴はその題材の選び方。テーマは、「無名の女子高生劇団の奮闘記」である。練習場所、台本、舞台まで徹底的に制約が付きまとい、女子高生を演じる若手女優達を悩ませる。はて・・どこかで聞いたような。

そう、この作品は「ご当地映画」という厄介な映画作りの難しさをそのまま、作品のテーマに投影させている点に作り手の創意工夫が光る。困難、葛藤を柔軟にさばき、伝説の劇団として成功する。この明解なルートを辿ることで、本作の意義が浮かび上がる。

「ご当地映画」と聞くと、「どうせ観光プロモーション映画でしょ」という色眼鏡が常に観客の念頭に置かれる。「どうせ、金集め」「どうせ、人集め」。どうせの予測が陰湿に観客の頭を支配し、純粋に映画を評価する目を曇らせる。だからこそ、本作はそんな色眼鏡の払拭に乗り出す。劇団の成功に、ご当地映画の復権を懸けている。これは、単なる女子高生劇団の成長物語に終わらない、観客への挑発と映画の可能性の提示が色濃く反映された作品だ。

もちろん物語の方も、短く、かつキレの良い台詞を重ねつつ個々のキャラクターをしっかり浮かび上がらせ、ミステリーとしての完成度も、女優達の持ち味をきちんと生かすことも忘れない。娯楽としてみせる姿勢も適格だ。特に、草刈麻有の素朴な演技と魅力は思わぬ発見と、喜びを呼ぶ。

「ご当地映画」という立場を逆手に取り、観客に訴えるメッセージ性と、無駄の無い物語というエンターテイメント性。その両方を一本の映画に昇華させることに成功した、見事な傑作に仕上がっている。その堅実な職人技に、ただただ拍手を送りたい。

ダックス奮闘{ふんとう}