劇場公開日 2011年7月16日

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「アバンギャルドは死なない」イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ 12番目の猿さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5アバンギャルドは死なない

2013年7月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

楽しい

知的

 完璧な映画である。たとえアートに関して何の知識もない人間であっても、この映画を観終わった後には「いったいアートとは何だろう」と、批評家のように自問せずにはいられなくなる程に観客を感化する。小難しい芸術理論は出てこない。まるでテンポのよい冗談混じりのロードムービーを観るかのように、主人公ティアリーとともにストリートアートシーンを旅して、気づいた頃には観客はそうなってしまうのだ。
 完璧な映画である。しかし、完璧というものは概して如何わしい。果たして、この映画は一体どこまでがドキュメンタリーなのだろうか。ストリートアートに興味を持ったカメラオタクのティアリーが、その道の天才といわれるバンクシーに出会う。ティアリーはバンクシーを含めたストリートアーティスト達の映画を制作しようとするが、しかし彼には映画監督としての才能がなく、バンクシーとの監督交代の後、バンクシーの軽い提案で素人ながら芸術活動に着手しだす。そこからこの映画は単なるストリートアーティストのドキュメンタリー映画ではなくなった。ティアリーは走る。名前をMBW(ミスター・ブレイン・ウォッシュ)と改め、コンセプトを人に指示するだけで実績もないにもかかわらず、彼は大がかりなショーを手がけていく。そのMBWの勘違いっぷりと暴走っぷりに巻き込まれた周囲は困惑する。バンクシーが「ティアリーの絵には価値がない」と言い、同業者が「MBWとは二度と仕事をしたくない」と冷ややかな眼差しを向けるその一方で、MBWのショーは予想外の結末を迎えるのである。
 完璧すぎる映画だ。時系列、機会、結末、そしてそれを撮る目線。まるで、「こうなることが初めから分かっていた」人間の手によって作られたような、そんな印象すら受ける。この映画を含む一連の社会現象が、バンクシーの壮大なアート作品(社会そのものに落書きをするという!)の一部なのではとも思えてくるのだが、シスの暗黒卿のようなシルエットで変声機を使って話す彼の本当の表情とその意図を、我々が知る術はないのである……。

13番目の猿