「わずか30分に詰め込まれたノスタルジー」ほしのこえ 葉読五式さんの映画レビュー(感想・評価)
わずか30分に詰め込まれたノスタルジー
本作はいまや日本を代表するアニメーション監督となった新海誠監督の初劇場公開作品である。その制作作業のほとんどを新海監督一人で行った本作は、わずか25分ほどの短い作品でありながら、スターウォーズのような宇宙艦隊からガンダムのようなロボットで出撃し異星人と戦うという壮大なSF作品である。普通であればこのような話を30分以下の短編でまとめるのは難しい。しかし本作は、(もちろん予算人員の都合もあるだろうが)主人公である2人の男女に登場人物を絞ることで綺麗に話をまとめ、そして他作品にはない、静かでひんやりとしたノスタルジーを伝えている。
本作は近未来的SFアクションパートである宇宙シーンと、どこか懐かしさを感じる美しい四季を背景に、今となっては過去の遺物とでもいうべきガラケーによるやりとりが行われる地球シーンの2つに大別される。この2つは全く性格が違う、本来一つの作品に登場しないであろうシーンだ。しかしその大きな差は、まるで地球と宇宙に引き裂かれた2人の距離を象徴するかのようになっている。国連宇宙軍の一員として遠く宇宙へ旅立った女子中学生の長峰と、その恋人で地球に残った寺尾。宇宙艦隊がワープを繰り返し地球から離れていくたびに、2人を繋ぐメールの転送時間は長くなっていく。転送まで1年。無機質に表示されるメッセージの古臭さ。それを取り囲む近未来的ロボットの、全周が機外をモニターしているコクピットとのコントラストが、絶望的でむなしい距離感を感じさせる。本作の登場人物はみな中学生だが、普通に考えて女子中学生をロボットに乗せて戦う必要性はない。しかもパイロットスーツのようなものはなく、セーラー服を着て搭乗している。その周りの設定は作中では明かされない。だが、この演出は、多少のツッコミどころを生んでも絶対に必要だ。1年、5年という月日は、大人となってはそれほど長い時と認識しにくい。しかし、学生にとっての1年とはなんと長いことだろうか。わずか3年しかない中学、高校生としての時間。そんな時期に抱いた淡い恋心に、1年という時間は残酷なほど長い。その感覚が、スクリーンを飛び越し僕たちの心に染み入ってくる。
構成するすべての要素が絶妙に混ざり合い演出されるノスタルジー。他作品にはそうない、まさに作家性といえるものが詰まった作品だった。