「アメリカの悲痛な内戦」ダークナイト ライジング abokado0329さんの映画レビュー(感想・評価)
アメリカの悲痛な内戦
「フロアの床には奈落が映し出されていた。そこに落ちたら無限に落下していきそうな闇だ。若者たちはその上空の虚無で踊っている」(p.172,伊藤計劃『虐殺器官』)
現代の的確な描写としてとても好きなのだが、本作にも奈落がある。それはブルースが敗北し、死に正しく恐怖することを学び、這い上がるための舞台装置として。何か感心した。ちゃんと奈落があると思って。けれどスクリーンに穴が空いているわけではない。引用と同じ「映し出されていた」だけだ。それならやっぱり私たちはイメージとしての虚無の上で踊るしかできない…?
内戦だ。アメリカ内部で起こりうる戦争を描いている。金融システムの単なる数字が崩壊し、ギャングと軍需産業が結託し、警察や司法制度が機能しない果てに起こりうるこの戦いを。
バットマンは奈落にいるからこの内戦の埒外にいる。それなら私たちはヒーローなき世界で、私企業がつくった核爆弾に怯えて、来るべき内戦に恐怖することしかできない…?
そうはいってもバットマンは戻ってこないといけないし、アン・ハサウェイ演じるキャットウーマンと協力して、破滅から救わないといけない。味方の裏切りとかまたかよ…と思ってしまったし、ラストもアメリカ国民の総体ではなく、バットマンに解決を求めるあたり、だから内戦は起こりうるんだと思ってしまった。だが、まあいいんです。私は続編みたいです。
けれどそうも言っていられないとも思う。戦争の足音が近づいているし、現に起こっている。そんな不穏さが私の胸中にはある。
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