「流れる川。清流の水音と水面のきらめきが胸をさらう」サンザシの樹の下で きりんさんの映画レビュー(感想・評価)
流れる川。清流の水音と水面のきらめきが胸をさらう
清らかな映画を見ると、心が清められます。
さめざめと泣きました。
こんなに今では汚れてしまった自分でも、まさしくあの頃はああであったこと。
思い出させてもらいました。
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僕は、レンタルのDVDを借りるときは、
①洋画、②邦画、そして③どうでもいい物(=捨てレンタル)、の3種類を選びます。
西洋料理が続いて胃もたれをしたら、和食を頂きますし、和食でも食べたくない時には絶食か薄口の昆布だしのお粥(小津作品、何も起こらない)を求めます。
そして僕の最近のトレンドはアジア物かもしれません。そこには、アジア人である自分自身への「再発見」があり、
魂の源流で、琴線に触れる”良い物“がいっぱい詰まっている“宝箱”だからです。
「新発見」ではない、この「再発見」がアジア物にはあるんですよ。
今回は漢方の“薬膳”をもとめて、中国の映画「サンザシの樹の下で」をチョイスしてみました。
心身ともに、この暑さとコロナ疲れに日々やられていますし、何かの効能があるかもしれません。
サンザシ(山査子)と言えば、思い出すのは以前に観た「最愛の子」(ピーター・チャン監督)です。やつれた農婦が手作りのサンザシのお菓子を持って都会へ出る辛いシーンがありましたっけ。
また、先日のお休みに近所の温泉ランドに行ってみたところ、褐色のお湯の薬草風呂があり、「説明文」にはこのサンザシの図解と効能がかかっていました、
で、ふと思い立って本作をレンタルです。
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見終わって、涙をぬぐいながら思うのは
「男女の出会いと、別れ」なんて、ごくごくありふれていて、どれだけ陳腐なことかとも思うのですが、
それでも有史以来、文学としてのこの定番は、様々のバリエーションで無尽蔵にストーリーが編み出され、そのどれもが我々の思い出のどこかに触れる=人の心を捉えて離さない永遠のテーマなのだということ。
女子高生ジンチュウは
手に触れないように飴をそっとつまんで受け取り、
手に触れないように小径を離れて歩き、
手に触れないように離れて眠る。
出会いから恋の発露までの、心情描写のういういしいこと。
バージンが絶滅した日本では考えられないような うぶなデートシーン。(笑)
万年筆と 氷砂糖と
金魚のマスコットと そして洗面器。
二人が贈り交わした精一杯のプレゼントで、思いやりと優しさの蕾はふくらみ、
一線を越えることを自制して、嗚呼、スンは川の向こうに行ってしまった。
堅物のお母さんが初めて娘の恋心に共感を示す小さな一言も、とてもいいシーンだったな。お母さん、表情は変えないのに想いが変わった瞬間の素晴らしい演技でした。
チャン・イーモア監督の、人間に対する深い愛情と信頼が、こうしてスクリーンに素朴な花となって咲くのですね。
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山奥のあの農村で、次の春、サンザシに紅色の花が咲いたのかどうか。そして留学したジンチュウがその後どうなったのか、
僕らは何も知らされずに映画は物語を閉じます。
中国の旧体制への批判とか、
放射性物質の地下資源を採掘する青年スンの危うさなど、
二人を縛りつける背景のエピソードがさりげなく映され、
「各シーン」は短め短めにフェードアウトしては暗転をし、字幕での説明がそこに折り込まれおり、小説を読むかのように、映像はあたかもその小説の挿し絵であるかのように、語り過ぎない余韻の上品さがある。
監督の繊細な手腕を見ました。
遅かれ早かれ、恋人や夫婦には別離は必ず来るのです(スンの言うように)。
どちらかが死んで、そのあともう一人も何処かで死んで、それでその時に二人の人生は終わり。本は閉じられて二人の物語が読み了わります。
思想矯正と“反省文”を書かされるために下放されたジンチュウなのだけれど、出会いの尊さは全てに勝っていた。
四季は死をも政治をも超えて変わらずに巡ってきた。
照らわずに愛の素晴らしさを謳います。
僕の心には紅いサンザシが咲きましたよ。
目を閉じると、スンの笑顔と声がまぶたに浮かびます。
直球です。
二人の流す涙が、僕の胸をふるわせています。
きりんさんこんばんは。正直、ラスト寸前までは、しみじみいい映画だなと思いながら、展開が予想を超えず、泣くまでには至りませんでした。
けどねぇ、あの写真はズルいよ!
まんまと滂沱の涙ですわ。
あのシーンで泣かない人なんているのでしょうか?
女優さん、「少年の君」の方だったことも知り、そりゃどストライクだと納得しました。
いい映画を教えていただき、ありがとうございました。またよろしくお願いします。
きりんさん、おはようございます!ベルモンド傑作選DVDを早速揃えている素晴らしいレンタル店!L’animalをご覧になったとのご連絡(?)ありがとうございます!とっても嬉しいです💕現場感も楽しくてワクワクしますよね。
のんきなお話ですが、この映画を見るといつも最後は幸福感に満ち溢れ涙が溢れます。
コメントありがとうございます。私のレビューがこの作品を観るきっかけになったとのこと、ありがとうございます。ちょっと照れくさいですが。
ただ私はかなり偏った見方をしている場所が多いので、その点をご了解の上参考にしてください。
きりんさん、こんにちは
私も最後は思わず泣いてしまいました。
でもこのような純愛は今の中国では存在しないような気がする、だから時代設定を文化大革命の頃にしたのかも。チャン・イーモウ監督は、文化大革命の頃は主人公の青年と同じ位の年齢だった。彼の失ったものへのノスタルジーだったのかも。