「旧作に比べ洗練されたが「トータル・リコール」といえばシュワルツェネッガー」トータル・リコール マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
旧作に比べ洗練されたが「トータル・リコール」といえばシュワルツェネッガー
原作は90年のアーノルド・シュワルツェネッガー主演作と同じだが、舞台を地球上だけにして火星は出てこない。
戦争で環境が破壊され、人が住める土地がイギリスのあたりとオーストラリアの一部だけになってしまっていたというのが今作の背景。
イギリス側は富裕者層が住むブリテン連邦、オーストラリア側に労働者層を集めたコロニーいう世界構図だ。
コロニーの労働者たちは地球のコアを抜けるフリーフォールのような乗り物で、地球の反対側にあるブリテン連邦の職場に通う。この乗り物がコアを抜けるときに重力が反転するというのが面白い。
ブリテン連邦は美しい都市開発と高度な交通網が整備されているが、コロニーの方はまるで中国で、「ブレードランナー」に出てくるようなスラム街だ。リコール社もかなり怪しげな佇まいだ。
この双方の都市で展開される逃走劇が面白い。コロニーでは入り組んだ路地を駆け抜け、ブリテン連邦では空中を疾走するクルマとエレベーターをかいくぐり、どちらも立体的に入り組んだ構造物を有効に活用したアクション・シーンになった。
ケイト・ベッキンセールとジェシカ・ビールは二人とも動ける女優で、その一騎打ちは旧作よりも迫力がある。とくにケイト・ベッキンセールの鬼嫁ぶりは相当なもの。クエイドの目が覚めたとき彼女が妻のままだったら、きっと前のようには愛せないのではないか?というぐらいコワい。ハウザー(クエイド)とメリーナの過去も旧作よりはしっかり描かれている。
この作品を見ていると、人が人としてそこに存在するというのは記憶の積み重ねによるものだとつくづく思う。自分のメモリーが消失したら、人は自身を見失い、信じるべきものをも見失う。ある意味、死よりも怖いかもしれない。「脳はひとにいじらせるな」というセリフがあるが、まったくその通りだ。
故プリシラ・アレンが演じた顔割れオバサン似の女優を再び入国審査に登場させ、審査官の質問に「2週間」と答えさせる遊びもあり、旧作に比べて洗練された作品に仕上がっていて観て損はない。
けれども、主役のコリン・ファレルは女優を引き立たせることはできるが、シュワちゃんのような豪快な存在感はない。
世界の設定を旧作と変えたとはいっても大筋は一緒で新鮮味に欠け、後々まで語られる「トータル・リコール」はやはり【シュワルツェネッガーの「トータル・リコール」】なのである。