「【91.5】ドラゴン・タトゥーの女 映画レビュー」ドラゴン・タトゥーの女 honeyさんの映画レビュー(感想・評価)
【91.5】ドラゴン・タトゥーの女 映画レビュー
作品の完成度
デヴィッド・フィンチャー監督がスティーグ・ラーソンの世界的ベストセラー小説をハリウッドで再映画化した、重厚な北欧ノワール・サスペンス。オリジナルであるスウェーデン版の持つ冷たい空気感や社会批評性は残しつつ、フィンチャー特有のスタイリッシュな映像美と冷徹なサスペンス演出が高次元で融合した傑作といえる。長尺ながらも中盤の失踪事件の謎解きパートは緊迫感に溢れ、登場人物が多いながらも複雑なプロットを淀みなく展開する構成力の高さが際立つ。ミカエルとリスベットという異色のバディの関係性とその化学反応の描き方も見事。ただし、原作のボリュームゆえに、結末のミステリー解決後のエピローグ的な部分がやや尻すぼみに感じるとの意見も一部にあり、その点が完璧な完成度を阻む唯一の要因かもしれない。全体としては、ダークな雰囲気と緻密なストーリーテリングが両立した、エンターテイメント性の高いサスペンスとして極めて完成度が高い作品。
監督・演出・編集
デヴィッド・フィンチャーの徹底したコントロールが行き届いた演出。全編にわたり、スウェーデンの冬の重く冷たい雰囲気を映像に焼き付け、張り詰めた緊張感を維持している。光と影の使い方が巧みで、特にリスベットの孤独や怒りを表現する場面でのダークなトーンが印象的。オープニングシークエンスのグラフィックデザインと音楽の融合は、本作の象徴的なスタイリッシュさを決定づけている。編集はカーク・バクスターとアンガス・ウォールが担当。膨大な情報量を持つ原作を2時間38分に収めつつ、ミステリーのテンポを損なわないシャープなリズムを生み出しており、情報処理の天才であるリスベットの調査過程を映像的に早回しで見せる手法なども相まって、観客を飽きさせない。彼らの仕事は第84回アカデミー賞で編集賞を受賞という結果に結実。
キャスティング・役者の演技
主演
ダニエル・クレイグ(ミカエル・ブルムクヴィスト)
名誉を失ったジャーナリストとしての渋みと人間味を表現。スウェーデン版のミカエル・ニクヴィストと比較される宿命にあったが、彼自身の持つセクシーさと冷静沈着さが、天才ハッカー・リスベットの過激さと対照的な魅力を生み出した。平凡な中年男性の枠を超えた、タフさと粘り強さを持つ調査報道家として説得力があり、リスベットとの絶妙な距離感を保ちながらの演技が光る。特に、危険な状況に飛び込んでいく勇気と、リスベットの繊細な心を理解しようとする優しさを内に秘めた、地に足の着いたキャラクター造形に成功。
ルーニー・マーラ(リスベット・サランデル)
本作の顔ともいえる存在。パンクな外見、無愛想な態度、そして内に秘めた怒りを持つ天才ハッカーという難役を、体当たりで熱演。オリジナル版のノオミ・ラパスのリスベット像を継承しつつも、より無機質で危うい、そして時に傷つきやすい乙女心を感じさせる独自のリスベット像を確立。全身のピアスやタトゥー、剃り込みといった外見の変化だけでなく、セリフが少ない中で、視線や表情の変化だけでリスベットの感情の機微を伝える卓越した表現力を見せた。この演技により、第84回アカデミー賞、第69回ゴールデングローブ賞の主演女優賞にノミネートされ、国際的な評価を獲得。
助演
クリストファー・プラマー(ヘンリック・ヴァンゲル)
40年前に起きた少女失踪事件の真相究明をミカエルに依頼するヴァンゲル・グループの元会長。威厳と哀愁を漂わせる演技で、事件に執着し続ける老人の悲しみと権力者の風格を見事に両立。物語の重厚な導入部を支える確かな存在感を確立。
ステラン・スカルスガルド(マーティン・ヴァンゲル)
ヘンリックの甥でヴァンゲル・グループの現CEO。温厚で魅力的な表の顔と、内に秘めた恐ろしい闇を演じ分け、物語の後半の展開における緊張感を一気に高める重要な役割を果たす。表裏のあるキャラクターの複雑さを巧みに表現し、強烈な印象を残した。
ロビン・ライト(エリカ・ベルジェ)
ミカエルが編集長を務める**「ミレニアム」誌の共同経営者で、彼の愛人**。ミカエルの精神的な支えとなりつつも、プロのジャーナリストとしての冷静さと判断力を持つ女性像を体現。過激な展開の中で現実的な視点を提供する存在として、安定した演技力を披露。
脚本・ストーリー
スティーヴン・ザイリアンによる脚本は、複雑な原作の要素を的確に抽出し、ハリウッド映画として通用するサスペンス構造に再構築。金融ジャーナリストの名誉回復の物語と、天才ハッカーの暗い過去が絡み合う、二重構造のストーリーテリングが特徴。スウェーデンの閉鎖的な島という舞台設定が、ヴァンゲル一族の腐敗と秘密を際立たせる。物語の核となるのは、40年前の少女失踪事件の謎解きだが、その過程で女性への暴力という普遍的なテーマが深く掘り下げられる。後半は、犯人特定のミステリーから、リスベットの復讐劇へと重心が移り、単なる謎解きに留まらない感情的な深みを加えている。
映像・美術衣装
ジェフ・クローネンウェスの撮影による映像は、寒色系のパレットで統一され、スウェーデンの厳しく孤独な冬の情景を表現。インダストリアルでモダンな美術は、登場人物たちの冷たい内面を映し出すかのよう。リスベットの住むアパートやヴァンゲル家の邸宅など、空間そのものが持つ重みがサスペンスを盛り上げる。リスベットのパンクでゴシックなファッションとメイク、体中に施されたタトゥーは、彼女の武装と自己防衛の象徴であり、美術と衣装がキャラクターの内面を雄弁に語る好例。
音楽
トレント・レズナーとアッティカス・ロスによる音楽は、インダストリアル・ノイズとエレクトロニカを基調とした冷たく、不安を煽るスコア。従来の映画音楽の枠に収まらない、実験的で現代的なサウンドが、フィンチャー監督のダークな世界観と完璧に調和。リスベットの孤独と暴力性、事件の陰鬱な雰囲気を増幅させる音響的効果を生み出した。
主題歌は、オープニングクレジットで使用された、レッド・ツェッペリンの**「移民の歌 (Immigrant Song)」のカレン・O**(フィーチャリング トレント・レズナー & アッティカス・ロス)によるカバー。原曲の持つエネルギーを保ちつつ、より現代的でサイバーパンク的なアレンジが施され、映画のスタイリッシュな幕開けを飾る。
作品 The Girl with the Dragon Tattoo
監督 デビッド・フィンチャー 128×0.715 91.5
編集
主演 ダニエル・クレイグA9×2
助演 ルーニー・マーラ A9×2
脚本・ストーリー
原作
スティーグ・ラーソン
脚本
スティーブン・ザイリアン A9×7
撮影・映像 ジェフ・クローネンウェス S10
美術・衣装 美術ジェフ・クローネンウェス 衣装
トリッシュ・サマービル S10
音楽 トレント・レズナー
アティカス・ロス B8