「「男が決めた役割」がドラゴン・タトゥーを苦しめる。」ドラゴン・タトゥーの女 すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
「男が決めた役割」がドラゴン・タトゥーを苦しめる。
○作品全体
カタルシスはあれど、見終わってみると苦しさが強く残る作品だった。
登場する女性たちは、なにかしらの役割を与えられている。それが本人も望むものであればいいけど、ほとんどは男性たちが一方的に押し付けたものだ。
「ドラゴン・タトゥーの女」ことリスベットはその役割に終始縛られている。
リスベットの時系列に沿えば、12歳の時に「精神障害者」というレッテルを貼られたところから、「被後見人」という役割を与えられ、自分はそうなのだと思い込む。一概に男性から、とは言えないが、発端は父からの虐待だ。
後見人が変わってからは「性のはけ口」という役割を与えられる。最初に反抗できなかったのは「被後見人」だから、という負い目や受け身な状況が背景にあったからだろう。反撃に及んだのはハリエットとは違って、「2度目の役割付け」だったからではないか。ここで動けなければ1度目と同じように役割を押し付けられ生きていくことを強いられる。その耐え難い苦痛をタトゥーと同じように、体に刻み込んでいたからではないだろうか。
また、ガールフレンドのいるリスベットがミカエルに興味を持ったのは、自身がやりたい仕事(役割)を与えてくれたからだと感じた。
ヴァンヘル家の事件が終わった後もミカエルに協力したのは、「精神障害者」というレッテルを「いつからそう言われていた?」というミカエルの言葉が決め手だと思う。リスベットに与えられた「被後見人」という役割を否定してくれるような言葉はリスベットに大きな影響があったはずだ。リスベットはミカエルを「仕事仲間」から「友達」へ、そして「愛する人」と認識を変えていった。
ただ、個人的には主人公・ミカエルもリスベットに「助手」という役割を押し付けているように感じた。リスベットから誘ってきたといえど肉体関係にまで及んでおきながら、役割の範囲でしかリスベットを認識していない。いや、認識していないというよりも意図的に距離を作っているような気がする。周りの人間に「あいつは誰だ?」と聞かれて「ただの助手だよ」と強調するように繰り返す。終盤でリスベットとの最中にハリエットの正体を考えているミカエルの姿を見ていると、本当に助手としか思っておらず、「付き合ってやってあげてる」という考えなのかもしれないが、その無頓着さが罪でもあると思う。
ラストシーンではそんな二人の認識のズレが露呈する。無造作にレザージャケットを投げ捨てる姿と、バイクで闇に消えていく姿が切なく、そして苦しい。信頼できると思っていた人物に近づくことが出来ず、孤独の闇に消えて行くようなラストシーンはすごく印象的だった。
リスベットに寄り添って考えると、リスベットは結局、終始男から与えられた役割に翻弄され続けていたのだ。信頼していた昔の後見人も、脳出血によって頼れる状況ではなくなってしまった。リスベットの周りの人間は「リスベット」ととして認識するのではなく、一つ距離を置いたところから軽蔑や奇異な目線を向けてこう認識するのだろう。「ドラゴン・タトゥーの女」と。
○カメラワークとか
・リスベットのが初めて登場するシーンもラストシーンも、ヘルメットを被りバイクに乗る姿だった。「リスベット」という個性を隠しているような、もしくはリスベット自身が隠そうとしているような印象。脱げば脱ぐほどパンキッシュなファッションやタトゥー、ピアス…派手な装飾がされているのもキャラクター付けとして印象に残る。
・雪や家屋の白と影や汚れの黒がモノクロチックなルックを作っていた。別世界にいるかのような画面の空気感が勝手に北欧のイメージに合致して、やけに馴染んで見えた。
○その他
・リスベット役のルーニー・マーラの役作りがすごく良かった。ビジュアルもそうだけど、なにより仕草が良い。自分の得意分野であるとか、自分をさらけ出せる場所であれば、まわりは気にせず、段取りも無視して積極的に振る舞う。初めてミカエルと寝たときとか、ガールフレンドと遊んでいるとき、そして仕事をしているとき。
そして自身が自身のコントロール下にないときには、目線を外し、服やカバンをつかんで身を守る仕草をする。歩き方さえも変わってしまい、背中を丸めて早歩きで進む。この極端な仕草がリスベットの過去を映し出しているようだった。
・事件を解明して行くドラマ部分も面白かったけど、何十年も前の写真を目線から追って行く、というのは興味深くもあり、結構シンドイ追い方だなあと思ったりもした。
・デヴィッド・フィンチャーは憎悪の写し方が実直で、それがカタルシスにもなるし他の作品とは違う緊張感を生んでいる。拷問部屋でビニール袋を被せられて必死に呼吸するミカエルのシーンとか、鬼気迫るものがあった。だけど、それが辛いなと思う部分もある。本作だと猫の死骸がそれ。